後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

第一皇子

亮亮(リァンリァン)ッッ第一皇子からお呼び出しがかかっているけど、何かしたの!?」

 三日後、一番可愛がってくれている先輩宮女の馬星星(マァ・シンシン)が大慌てで部屋に入ってきた。心当たりが無くてきょとんとしていると、馬星星が両手で夏晴亮の肩を掴んでがくがく揺らした。

「皇子……とは……?」
「ここで働いてて知らないの!? とりあえず早く行ってきて!」
「え、え、馬せんぱ」
「行けば分かるから!」
「い……」

 全くもって分からない。何があったのか。名前を呼んでいる途中で廊下に放り出された。行けば分かると言われてもどこに行ったらいいかすら分からない。

 馬星星は「第一皇子」と言っていた。宮女として働いているのだから、皇帝や皇子がここに存在していることくらいは知っている。が、まだ働き始めて数日の身分では姿を見たことすらない。

「皇子様だから、豪華そうな方へ進めばいいかな」

 廊下の先をじっと見る。全然分からない。ここにある全てが夏晴亮(シァ・チンリァン)にとっては豪華で派手なものだから、宮女の部屋と皇族の住まいの違いすら分からない。
 適当に歩いていると、良い匂いが漂ってきた。

「昼餉の匂い……!? きっとこっちだ!」

 正解かどうかは置いておいて、本能に惹かれるままふらふら歩いていった。

「夏晴亮!」

 匂いが強くなった部屋の前で女官が立っていた。夏晴亮を見るや否や焦った様子で腕を掴んでくる。

「お疲れ様です」
「まだ疲れてない! 早くこちらへ、任深持(レン・シェンチー)様がお待ちよ。くれぐれも無礼の無いように」
「はぁ……」

 第一皇子も任深持の名前も何一つピンとこない。くるのは部屋の中の匂い一つだけだ。女官に押されながら部屋へ押し込まれる。これから何が起きるのか。

――出来れば美味しいことが起きてほしいなぁ。

「失礼します。夏晴亮です」
「待っていたぞ」
「あれ……あれ……?」

 豪奢な椅子にふんぞり返ってこちらを見る男がいる。その顔に見覚えがあった。男の後ろに痩せこけた厳しい顔の男が姿勢正しく立っている。

「あーッ私を毒見師に任命した人!」
「この失礼極まりない女性が貴方様のおっしゃる毒見師ですと?」
「……ああ」

「ところで第一皇子はどちらに? 何故か私が呼ばれまして」
「これが?」
「…………ああ」

 こめかみを痙攣させながら男が立ちあがった。

「私を知らないで請け負ったのか」
「えと、はい」

 男がつかつかこちらに歩み寄り、夏晴亮の前で声を張り上げた。

「私が才国第一皇子の任深持だ。その愚かな頭によぉく叩き込むように」

「ええ……ッッ!!」
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