後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

引っ越し

「でも、ついに亮亮と別の部屋になるのね。寂しい」
「私の部屋ってどこになるんでしょう」
「それは任深持(レン・シェンチー)様の近くでしょう。さすがに正妃の隣とかではないだろうけど」

 宮女の部屋に比べて広く作られた部屋が後宮にはいくつか設けられている。側室を何人も持つことを想定してのことだが、このいくつかは使われないままになる。

 コンコン。

 扉が叩かれる。引っ越しの手伝いに来た宮女かと思ったら、任深持が立っていた。

「荷物を運ぶぞ」
「任深持様が?」
「悪いか」
「悪くないです。有難う御座います」

 ずかずか入ってくる第一皇子に馬星星(マァ・シンシン)が呆れた。

──全部自分がやりたいってこと? それとも、早く自分の傍に置きたいってこと? どっちにしても相当ね……。

 とりあえず、当人である夏晴亮が嫌がっていないのであれば、先輩として二人の行く末を祈るだけにしておこう。

 率先して荷物を持った任深持について歩き出す。どの部屋になるかも知らされていないので一緒についていくしかないのだが、やはりというか、第一皇子と側室が荷物運びをしている様子を他の宮女に見られて驚愕された。

「任深持様! お持ちします!」
夏晴亮(シァ・チンリァン)様も!」
「ええと、私は自分でやりますので」

「もう貴方は側妃なのよ! 威厳を持って!」
「は、はい!」

 そういえば、立場的には先輩宮女たちより上になったのだった。急に敬語を使われて焦ってしまう。
 宮女に荷物を預け、その横を歩く。背中を軽く叩かれた。

「姿勢も良くして。大丈夫、とても愛らしい顔立ちなのだから、あとは堂々としていればいいの。応援しているわ」
「はい。有難う御座います」

 ここではまだ新人の域を出ておらず、掃除をするのがやっとだったのに、こうしていつでも先輩たちは励ましてくれた。これからは側室として、第一皇子の恥とならないよう頑張ろう。

「正妃に虐められたら言うのよ。あと、そこの方にも」

 追加でこっそりとそう言われた。夏晴亮は何も言えず、無言で頷くに留まった。

──王美文(ワン・メイウェン)様ってやっぱり高貴な出なんだ。私も見習って、貴族の立ち振る舞いをきちんと学ぼう。

「そうだ。夏晴亮に付く宮女だが、馬星星に決まった」
「そうなのですか!」
「そうなのですか!?」

 突然の知らせに驚いていたら、隣で馬星星が夏晴亮以上に驚いていた。
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