後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
才国の歴史
夏晴亮が声を潜めて問う。
「馬宰相は、王美文様の告白を身分の違いで断ったと聞きました。その、彼は相手が身分相応だったら考えられたりは──」
「どうかしら。風兄から恋人の存在を聞かされたことはないし、そういう人がいるなって思ったこともない。今まで一人もいなかったかもしれないわ」
「そうですか」
その時、夏晴亮はいつかの馬宰相の言葉を思い出していた。
『身分のことを考えなかったら、貴方の気持ちはどうですか』
──あれは私だけじゃなく、自分に向けての言葉でもあったのかな。
彼が本当に王美文をそういう対象として見られないのか、身分で遠慮したのかは分からない。しかし、これからも二人が結ばれることはないのだろうと思うと、複雑な気持ちになった。
「亮亮が気にする必要は無いわ。きっと恋にも愛にも興味が無いのよ。人は人、頼まれてもいないのに他の人が気にしたってお互い時間の無駄になるだけ」
突き放した言い方だが、正論だ。気にしてほしくないのに気にされたら、された方も対応に困る。助けを呼ばれたら、その時全力で助けたらいい。
「すごい。馬先輩、大人です。尊敬します」
「もっと尊敬してくれてもいいのよ~」
宮女の先輩後輩として、同室者として多くの時間を過ごしてきたが、それでも仕事中は別の場所にいたので、こうして毎日時間を気にせず会話出来るようになれて嬉しく思う。側室と付き人と関係性は変わっても、二人の距離は変わらない。
「じゃあ、夕餉まで復習でもしよっか」
「復習って、もしかして才国の歴史ですか……」
「そう。亮亮の苦手な歴史よ」
「うええ……」
夏晴亮は渋々、渋々歴史書を開いた。実にぶ厚い。まだ半分も読んでいない。まだ一冊目なのに。古い歴史を持つ国だということだけは理解した。
「じゃあ一行目から読んでみて」
「はい」
才国は千年を超える昔、一人の皇帝と四人の武将が諸国を統一したことで始まった。皇帝は武将に余る程の褒美を与え、民の意見を聴いた。負けた国の民も真面目な皇帝の態度を受け入れ、国民の数はどんどん増えていった。
その後、国が大きくなったため、武将の一人が才国の一部を引き受ける形で新たな国を建てる。しかし、その国に関する情報は徐々に減っていき、やがて無くなり、今ではどこに存在するのか分かっていない。
「そこまで。じゃあ、今度は歴代皇帝の名前を復習するよ」
「は、はい……」
すでに息絶え絶えの夏晴亮は横に置かれた飲み物を一気に飲み干した。勉強の中でも名前を覚えるのが苦手なのだ。
「馬宰相は、王美文様の告白を身分の違いで断ったと聞きました。その、彼は相手が身分相応だったら考えられたりは──」
「どうかしら。風兄から恋人の存在を聞かされたことはないし、そういう人がいるなって思ったこともない。今まで一人もいなかったかもしれないわ」
「そうですか」
その時、夏晴亮はいつかの馬宰相の言葉を思い出していた。
『身分のことを考えなかったら、貴方の気持ちはどうですか』
──あれは私だけじゃなく、自分に向けての言葉でもあったのかな。
彼が本当に王美文をそういう対象として見られないのか、身分で遠慮したのかは分からない。しかし、これからも二人が結ばれることはないのだろうと思うと、複雑な気持ちになった。
「亮亮が気にする必要は無いわ。きっと恋にも愛にも興味が無いのよ。人は人、頼まれてもいないのに他の人が気にしたってお互い時間の無駄になるだけ」
突き放した言い方だが、正論だ。気にしてほしくないのに気にされたら、された方も対応に困る。助けを呼ばれたら、その時全力で助けたらいい。
「すごい。馬先輩、大人です。尊敬します」
「もっと尊敬してくれてもいいのよ~」
宮女の先輩後輩として、同室者として多くの時間を過ごしてきたが、それでも仕事中は別の場所にいたので、こうして毎日時間を気にせず会話出来るようになれて嬉しく思う。側室と付き人と関係性は変わっても、二人の距離は変わらない。
「じゃあ、夕餉まで復習でもしよっか」
「復習って、もしかして才国の歴史ですか……」
「そう。亮亮の苦手な歴史よ」
「うええ……」
夏晴亮は渋々、渋々歴史書を開いた。実にぶ厚い。まだ半分も読んでいない。まだ一冊目なのに。古い歴史を持つ国だということだけは理解した。
「じゃあ一行目から読んでみて」
「はい」
才国は千年を超える昔、一人の皇帝と四人の武将が諸国を統一したことで始まった。皇帝は武将に余る程の褒美を与え、民の意見を聴いた。負けた国の民も真面目な皇帝の態度を受け入れ、国民の数はどんどん増えていった。
その後、国が大きくなったため、武将の一人が才国の一部を引き受ける形で新たな国を建てる。しかし、その国に関する情報は徐々に減っていき、やがて無くなり、今ではどこに存在するのか分かっていない。
「そこまで。じゃあ、今度は歴代皇帝の名前を復習するよ」
「は、はい……」
すでに息絶え絶えの夏晴亮は横に置かれた飲み物を一気に飲み干した。勉強の中でも名前を覚えるのが苦手なのだ。