後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

聞き込み

 ドオン!

 そこへ、大きな音とともに大門がゆっくり開かれた。待っていると、数人の軍人や術師とともに金依依(ジン・イーイー)が入ってきた。王美文(ワン・メイウェン)が駆け寄る。

「金依依……無事で何よりです」
「ただいま戻りました」

 王美文にとっては感動の再会だ。なにせ、昨日まで一緒だと思っていたのは見ず知らずの精霊だったのだから。これで彼女の不安が取り除かれるといいのだが。

──あの人が本物の金さん……怪我も無さそうでよかった。

 正妃が間違うくらいなので、見た目はそっくりだ。しかし、言動などはさすがに違うだろうと思い観察を続けていたが、王美文を宥める金依依の表情筋はぴくりとも動かなかった。

──まだ精霊ってことはないよね!?

 思わず辺りを見渡すが、(マァ)宰相が二人の再会を大人しく見守っているところを見る限り、彼女は本物らしい。必要以上の言葉も発しないので、益々精霊然とした面持ちである。

「王美文様、そろそろ中へ入りましょう」
「ぴぇッ……分かりました。さ、金依依」
「はい」

 最愛の人に話しかけられ挙動不審になった王美文とともに、夏晴亮(シァ・チンリァン)たちも後宮へと戻る。雨を金依依の近くでうろうろさせてみたが、一度も視線がそちらへ向くことはなかった。

 術師と宮廷内で別れ、後宮の大部屋にその他の面々で入る。ここで改めて金依依に詳細を聞いた。

「私はあの日、宮廷の大門が開くのを待っていました。すると、王美文様が忘れ物をしたとおっしゃるので、一度国に帰り、それを届けることになっていました」
「私はそんなこと言っていないわ」
「では、隙を突いて、偽の王美文様に変化し、金依依に命令したのでしょう。今後このようなことがないよう、大門が開いた時でも宮廷内にいる精霊以外入ってこられないような結界を張ります」

 それならば、万が一人に変化していたとしても人とは違うモノなので、周りの人間を誤魔化せても入ってはこられない。今回の事件は衝撃的であったが、被害者が出ないうちに対策が取れたのは幸いだ。

 これからの参考にしようとやり取りを見つめていた夏晴亮だったが、結局最後まで金依依の表情が崩れることはなく、精霊についての知識を深めることは出来たものの、金依依については謎が深まるばかりだった。一貫して無表情で無口。なるほどこれは、王美文でも分からないわけだ。
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