後宮毒見師伝~正妃はお断りします~

まだ見ぬ未来

 菓子を服に忍び込ませ、輪に入る。余っている饅頭を二つもらい、あっという間に平らげた。任深持(レン・シェンチー)が笑う。

「毒見師よ、先ほど一人前食べたんじゃなかったか」
「毒見と食事は別腹です」
「ははッそれはいい」

 ここにいる誰よりも野外生活に慣れていそうで、立派な妃だと任深持が嬉しくなる。

 夏晴亮(シァ・チンリァン)は実に面白い。見た目だけなら上品な貴族であるのに、蓋を開けてみれば、何でも興味を持ち、大変なことでも率先してやる。一人で生きてきた逞しさは、他の者にも伝染して士気が上がる。彼女を連れてきてよかった。

──夏晴亮は私が守る。

──任深持様は私が守る。

 第一皇子と側室の想いは同じだった。

「さて、休憩は終わりだ。日が暮れる前に次の国へ入るぞ。そこを抜けてしばらく行ったら東東山だ」
「はい」

 地方都市に入り、馬を飛ばす。このまま真っすぐ進むと王都だが、途中で右に道を逸れ、荒道を行った。家々がぽつぽつある村がたまにあるくらいで、どうやらこの国は王都以外はさほど栄えていないらしい。

 才国しか知らない夏晴亮には珍しい光景が続く。もし自分が生まれ落ちたところがこの国だったら、腹を空かせて死んでいたかもしれない。そう思えば、才国にいて幸いだった。

 しかし、こちらは道で寝ている者は無く、家無しの者がいないように思われた。貧しく見えても家がある。もっと場所を移せばいるのかもしれないが、家無しがいるのは才国の人口の多さにも起因している可能性がある。

──才国は他国と貿易とか交流ってあるのかな。いろいろな国を見て、そこの良さを取り入れられたら、私みたいな人を減らせるかも。

 馬に揺られながら、夏晴亮はそんなことを思い描いていた。

 二度目の休憩を終え、一行は新たな国に入国していた。宿屋を占領するのは好ましくなく、草原が広がるところで野営することにした。

「側妃、このようなところで申し訳ありません」
「いえ、全然問題無いです」

 (ヂュ)大将に気を使われたが、野宿ばかりだった夏晴亮にとって本当に問題無かった。

「森の方が体を預けるところがあるが、誰が隠れているか分からないからな」
「ここなら見晴らしが良くていいですね」

 野営の準備が終わったところで、術師五人が一行の周りに立ち印を結んだ。

「結界を張りました。これで野生動物などは入ってこられません。襲撃があっても、すぐには破られないでしょう」
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