後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
雷
結界の中を歩き回っていた雨を呼び寄せる。馬たちは手綱を護符で制御し、結界から出ないようにさせた。
「便利な法術が沢山あるのですね」
「はい。夏晴亮様もお望みであれば、帰還した際にお教えします」
「そうですね。せっかく学びの時間も頂けていますし、挑戦してみようかな……」
以前は一人前の宮女にと思って術師についてはまだ後だと思っていた。しかし、側室となった今、妃教育が主な仕事となっている。宮女時に行っていた掃除はやらせてもらえない。
大きな声では言えないが、妃教育より術師の座学の方がずっとやってみたい。
──こういう時に術師の方のお手伝いが出来るし、阿雨についても詳しくなれる。
豪奢な椅子にのんびり座っているより、現場に出てあくせく働きたいのだ。
陽が暮れ夜になり、就寝の時間になった。兵が交代でひ見張りを立てることになっている。雨も夏晴亮の側でおすわりをし、見張りをしてくれるらしい。実に頼もしい限りだ。ちなみに雲の方は宮廷に残り、宰相代理として働いてくれている。
「ありがとう。おやすみ、阿雨」
『わん』
見張り以外は眠りにつき、風の音だけが響いている。雨も見張りの兵士も見える範囲に不審な動きは見受けられず、思わず欠伸が出る。その中で唯一、李友望を追う護符の光だけがただの一瞬、西へと動いていた。
「ん~~~」
翌朝、日の出とともに目を覚ます。夜に一度目が覚めただけで、ゆっくり寝られたと思う。夏晴亮が近くにいる雨を呼び寄せる。
「おはよう」
『クゥン』
見渡すが、昨夜と変わった様子は無い。どうやら、何も起きなかったらしい。朝餉を済ませ、出発の準備をする。
「夏晴亮、調子はどうだ」
「平気です」
「よかった。そろそろ出発しよう」
急げば今日中に東東山まで辿り着くことが出来るが、暗くなってからでは危険が伴うため、その手前でもう一夜越す予定になっている。
「馬たちも長く走ることに慣れてきた。都市が近い場所まで走らせて、明日に備えて早めに体を休めよう」
「はい」
先頭を走る朱大将が軍を仕切る。彼は建国時から続く軍人の家系で、幼い頃から鍛錬してきた生粋の軍人だ。
「朱卓凡に任せれば、上手くいきそうだな」
「そうですね」
一刻ごとに休憩を入れ、午後になって二つ目の国を抜けた。これであとは東東山を目指すだけとなった。
「陽が暮れる前に野営の準備をするぞ」
馬を降り、各々が作業を始めた頃、急に雲行きが怪しくなった。薄暗い雲がごろごろと音を立てる。
「雨か? しばらく雨は降らないと聞いていたのに」
『わんッわんッ!』
その時、雨が空に向かって強く吠え出した。
「阿雨が何か知らせています!」
「どうした……うわぁッ!」
ビカァッ!!
眩しい光とともに、一行を雷が襲った。
「便利な法術が沢山あるのですね」
「はい。夏晴亮様もお望みであれば、帰還した際にお教えします」
「そうですね。せっかく学びの時間も頂けていますし、挑戦してみようかな……」
以前は一人前の宮女にと思って術師についてはまだ後だと思っていた。しかし、側室となった今、妃教育が主な仕事となっている。宮女時に行っていた掃除はやらせてもらえない。
大きな声では言えないが、妃教育より術師の座学の方がずっとやってみたい。
──こういう時に術師の方のお手伝いが出来るし、阿雨についても詳しくなれる。
豪奢な椅子にのんびり座っているより、現場に出てあくせく働きたいのだ。
陽が暮れ夜になり、就寝の時間になった。兵が交代でひ見張りを立てることになっている。雨も夏晴亮の側でおすわりをし、見張りをしてくれるらしい。実に頼もしい限りだ。ちなみに雲の方は宮廷に残り、宰相代理として働いてくれている。
「ありがとう。おやすみ、阿雨」
『わん』
見張り以外は眠りにつき、風の音だけが響いている。雨も見張りの兵士も見える範囲に不審な動きは見受けられず、思わず欠伸が出る。その中で唯一、李友望を追う護符の光だけがただの一瞬、西へと動いていた。
「ん~~~」
翌朝、日の出とともに目を覚ます。夜に一度目が覚めただけで、ゆっくり寝られたと思う。夏晴亮が近くにいる雨を呼び寄せる。
「おはよう」
『クゥン』
見渡すが、昨夜と変わった様子は無い。どうやら、何も起きなかったらしい。朝餉を済ませ、出発の準備をする。
「夏晴亮、調子はどうだ」
「平気です」
「よかった。そろそろ出発しよう」
急げば今日中に東東山まで辿り着くことが出来るが、暗くなってからでは危険が伴うため、その手前でもう一夜越す予定になっている。
「馬たちも長く走ることに慣れてきた。都市が近い場所まで走らせて、明日に備えて早めに体を休めよう」
「はい」
先頭を走る朱大将が軍を仕切る。彼は建国時から続く軍人の家系で、幼い頃から鍛錬してきた生粋の軍人だ。
「朱卓凡に任せれば、上手くいきそうだな」
「そうですね」
一刻ごとに休憩を入れ、午後になって二つ目の国を抜けた。これであとは東東山を目指すだけとなった。
「陽が暮れる前に野営の準備をするぞ」
馬を降り、各々が作業を始めた頃、急に雲行きが怪しくなった。薄暗い雲がごろごろと音を立てる。
「雨か? しばらく雨は降らないと聞いていたのに」
『わんッわんッ!』
その時、雨が空に向かって強く吠え出した。
「阿雨が何か知らせています!」
「どうした……うわぁッ!」
ビカァッ!!
眩しい光とともに、一行を雷が襲った。