後宮毒見師伝~正妃はお断りします~
墓は無い
激しい音と衝撃が体中を走り、地面に亀裂が入る。これをまともに受けたらひとたまりもない大きな雷だったが、幸いにも怪我人は出なかった。護符を見ると、黒ずみ、今にも崩れ落ちそうだ。
「護符が守ってくれたんだ」
「しかし、これではもう使えないな」
他の者の護符も同様だ。それにしても、今の雷は不自然だった。いくらなんでも、いきなり現れた雲が狙ったかのように雷を落とすだろうか。
「任深持様! 手紙の護符の光が移動しています!」
見せられた手紙の上には東西南北が書かれた護符が。しかし、光は東の方向を指しておらず、ちょうど真ん中をぐるぐると回っていた。
「これはどういうことだ?」
「この近くに、李友望の体、つまり墓があるということかと……」
「東東山まではまだ距離があるぞ。墓だけ違う場所にあるのか?」
馬宰相の眉間に皺が寄る。
「おかしいです。つい先ほどまでは東で合っていました。これでは、李友望の墓がいきなり移動したことになります」
他の者も知らせを聞いてざわつきが広まる。朱大将が統率を図った。
「皆、ここで慌てていたらいけない。墓が移動したかどうかは分からずとも、この近くに相手がいることは確か。陣形を組み、任深持様と夏晴亮様をお守りするんだ」
「はッ!」
術師たちが守りの結界を張ろうとしたその時、一人の術師が土から吹き出た矢によって左手を貫かれた。
「ぐぅぅぅ!」
「下だ!」
「下にも結界を!」
残りの四人でどうにか結界を張り終えた瞬間、結界に向かって次々と矢が放たれた。
「どこだ!」
大地を揺るがす地響きが聞こえる。呆然とする一行の前に、黒い鎧を纏った軍隊が現れた。
「超国の人間か!」
「いかにも」
大将らしき者の後ろに一際立派な馬に乗る男が答えた。歳の頃は七十を超えていそうだ。彼が超国の皇帝だろうか。自ら姿を現すとは相当な自信か、何か事情があるのか。
任深持が結界のぎりぎりまで前へ出る。
「私は才国第一皇子の任深持と申します。超国の皇帝とお見受けします。今日は話し合いに参りました」
名を名乗ると、男が低く笑い声を上げた。
「ふはは! 笑わせるな、話し合いだと……? この超国皇帝李友望に」
「李友望!?」
才国に動揺が走る。
「李友望は二百五十年前の人物ですが?」
李友望が両手を広げて答えた。
「私にはその力がある。お前の先祖は邪術だと私を見放したがな!」
「護符が守ってくれたんだ」
「しかし、これではもう使えないな」
他の者の護符も同様だ。それにしても、今の雷は不自然だった。いくらなんでも、いきなり現れた雲が狙ったかのように雷を落とすだろうか。
「任深持様! 手紙の護符の光が移動しています!」
見せられた手紙の上には東西南北が書かれた護符が。しかし、光は東の方向を指しておらず、ちょうど真ん中をぐるぐると回っていた。
「これはどういうことだ?」
「この近くに、李友望の体、つまり墓があるということかと……」
「東東山まではまだ距離があるぞ。墓だけ違う場所にあるのか?」
馬宰相の眉間に皺が寄る。
「おかしいです。つい先ほどまでは東で合っていました。これでは、李友望の墓がいきなり移動したことになります」
他の者も知らせを聞いてざわつきが広まる。朱大将が統率を図った。
「皆、ここで慌てていたらいけない。墓が移動したかどうかは分からずとも、この近くに相手がいることは確か。陣形を組み、任深持様と夏晴亮様をお守りするんだ」
「はッ!」
術師たちが守りの結界を張ろうとしたその時、一人の術師が土から吹き出た矢によって左手を貫かれた。
「ぐぅぅぅ!」
「下だ!」
「下にも結界を!」
残りの四人でどうにか結界を張り終えた瞬間、結界に向かって次々と矢が放たれた。
「どこだ!」
大地を揺るがす地響きが聞こえる。呆然とする一行の前に、黒い鎧を纏った軍隊が現れた。
「超国の人間か!」
「いかにも」
大将らしき者の後ろに一際立派な馬に乗る男が答えた。歳の頃は七十を超えていそうだ。彼が超国の皇帝だろうか。自ら姿を現すとは相当な自信か、何か事情があるのか。
任深持が結界のぎりぎりまで前へ出る。
「私は才国第一皇子の任深持と申します。超国の皇帝とお見受けします。今日は話し合いに参りました」
名を名乗ると、男が低く笑い声を上げた。
「ふはは! 笑わせるな、話し合いだと……? この超国皇帝李友望に」
「李友望!?」
才国に動揺が走る。
「李友望は二百五十年前の人物ですが?」
李友望が両手を広げて答えた。
「私にはその力がある。お前の先祖は邪術だと私を見放したがな!」