白い菫が紫色に染まる時
【2012年高校三年の夏 菫 北海道】~夏の花火と揺れる思い~
【2012年 高校三年生の夏 菫 北海道】

「暑い・・・・」

今日は夏休み前の最後の登校日だ。
けれど、明日から夏休みと言っても全く嬉しくない。
なぜなら、私は受験勉強に追われる高校三年生なのだ。
夏休みも勉強漬けの日々確定である。

「はあ~。嫌だな、夏休み」

私は自分の席に座りながら不満を漏らす。

「白澄は?どうするの、夏休みは」

私の後ろで暑さに堪えている彼に聞いた。

「俺は、父ちゃんのチーズ工場で働く予定」

白澄は代々受け継がれているチーズ工場を継ぐ予定らしく、受験勉強はしないようだ。

「へ~、そっか。たまに、遊びに行くから、その時は相手してね」

勉強サボるなよと口では言っていたが、満更でもなさそうな表情をしていた。
夏休み前の登校日は授業などなく、終業式が体育館行われるだけなので、午前中には、下校することになる。
学年ごとに列に並んで、校長先生の話を聞く。
先生の話が面白いわけもなく、うたた寝する学生が多いのは、毎度のことだ。
特に三年生は受験勉強で睡眠時間を削っている人が多いのだろう。
私は校長先生の声と体育館に響く大型扇風機のぎこちない音を聞きながら、滴り落ちる汗を拭った。

終業式が終わり、その場でホームルームをして、下校する流れになった。
私はいつも通り、白澄と陽翔と帰ろうとしたその時、担任に呼び止められた。
なぜ、呼ばれたのかの察しはついた。

「ごめん。先帰ってて」

二人に、呼び止められた理由を聞かれたくなかったのだ。

「いや、教室で待ってるよ」

二人はそう答えて、先に体育館を去っていった。
私は先生と職員室へ向かう。
大事な話なので、こんな所で話すことはできないのだろう。
その大事な話とは奨学金のことだった。

「何個か、遠野が利用できそうな奨学金制度の資料を集めといたから。ここから選んで申し込もう」
そう言って先生はいくつか資料を渡してくれた。

「ありがとうございます」
「でも、遠野の父親の職業のこと考えると、なかなか適用される奨学金がなくてな・・」

私は父親に頼らず、大学に行くと決めていた。お金も払ってもらわない。
塾だって行かない。そのために、国立大学に奨学金で行くことにしていた。

「失礼しました」
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