白い菫が紫色に染まる時
【2012年高校三年の秋 菫 北海道】~解消と心の距離~
【2012年 高校三年生の秋 菫 北海道】

夏休みが明けて久しぶりの通学路。その道のりを歩く私の足取りは重い。
学校に着いたら、言わなければいけないという気持ちでいっぱいだった。
何を?どのように?
わからないけれど、何か伝えなければいけないことは確かだった。
問題は白澄を目の前にして、あの日のことを話題に出す勇気が今の私にあるのだろうか。
目の前にすると尻込みしてしまいそうだ。
しかし、来てほしくない時間ほど早くやってくる。
もう、教室の前に着いてしまった。
私は覚悟を決めて、教室のドアを開ける。
そこには、夏休み前と変わらないいつもの光景があった。
白澄がいて、その前の私の席には陽翔がいる。

「おはよう」

私はあくまでもいつも通りにしようと意識した。

「おはよう。久しぶり」

白澄もいつもと変わらない爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。

「久しぶり・・・・」

私も笑顔で返すが口角が上がりきらずぎこちなくなっている。
陽翔は私が来たのでいつも通り私の席から立ち上がり、席を譲る。
その空いた席に私が座った。
この場に漂う混沌とした雰囲気を悟り、陽翔の持ち前の明るさで話を切り出した。

「そうそう。俺さ、夏休みに図書館で日向と会ったよ。あいつも受験生なんだよな」
「そっか。日向は高校受験か・・・」

私はその助け舟に乗っかろうとしながらも、集中できず、頭の片隅では別のことを考えていた。

「ちなみに、日向は、ここ受験する予定だから」
「え~、そうなの?あいつ、俺らの後輩になるのか」
「合格したらだけどな」       
                     
白澄の態度はいつもと変わらないように見える。
さっき挨拶した時も、爽やかな笑顔を浮かべていた。
そんな彼を見ていると、あの日のことを、こんなに気にしているのは私だけなのではないかと思える。
あの日の記憶は夏の暑さに惑わされ、私が勝手に作り出した夢なのではないかと思えてくる。
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