白い菫が紫色に染まる時
【2013年高校三年の春 菫 北海道】~別れ~
【2013年 高校三年生の春 菫 北海道】

時が経ち、季節は秋から冬へ変わった。
冬休みまで、授業は通常通り行われたが、一月以降は受験のため学校が休みになる。
だから、私たちは元旦にお参りに行ったきり会うことはなかった。

久しぶりに会ったのは卒業式の日だった。
市長だったり、校長だったりの話は長いし、暖房のない体育館は寒いし、誰だかわからない祝電を永遠と聞かされるし、感動の涙もない退屈な卒業式だった。
そもそも、私にはこの場所を離れることに名残惜しいなどの感情がないのかもしれない。
おそらく、あと少しで東京へ行けることへの期待の方が高まっているのだ。

式が終わった後、三人で写真を撮ったりしながら、お互いの進路の報告をした。
陽翔は第一志望こそ合格しなかったが、札幌にある第二志望の私立大学に合格したらしい。
私は、奨学金を使って東京の国立大学への進学が決まった。
白澄は一か月後には、あのチーズ工場で今より本格的に働くことになるみたいだ。
本当に、あの夏に三人で見た花火のように、それぞれが散っていくことになった。

そして、卒業式にいつもの公園で一輪の花を片手に写真を撮ったのが一週間前。
私は今東京行きの飛行機に乗るために、空港にいた。
そこには見送りで来てくれた白澄と陽翔がいる。
体調を崩していた母親には、わざわざ空港まで来なくて良いと言ったので、来てない。
見送りたそうにしていたけれど。玄関で別れを告げてきた。父親はもちろん来るわけがない。

「本当に行くんだな、東京」
「うん。行くよ」

もう、覚悟を決めた。私の心は晴れ晴れとしている。

「俺が東京に遊びに行くことがあったら、案内してくれよ」
「東京に来ることあったらね。任せといて。それじゃ、じゃあね」
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