白い菫が紫色に染まる時
私は最後に二人の顔を見て笑顔で別れの挨拶を告げ、ゲートへ向かって歩き出そうした。
そこで、突然、白澄に呼び止められて、抱きしめられた。
それは、あの夏の日のような強引さを感じるものではなかった。
包み込まれるような感覚だった。
私は一瞬驚いたものの、特に抵抗はせず、なされるがまま彼の腕の中にいた。

「元気でな。なんかあったら、すぐに連絡しろよ」

そう言って、彼は私を離した。
彼の目は真剣だけれど、あの夏の夜とはどこか違う。
透き通った瞳をしていた。

「うん。ありがとう」

だから、私も白澄の目と向き合うことができた。あの日とは違って。

「ちょっと、俺がいること忘れないでもらっていいですか?」

陽翔に声をかけられて、ふと正気に戻った。

「あ、ごめん」
「ごめん」

同時に笑いながら謝る。

「まあ、しばらくの別れになるしな。名残惜しいのはわかるし。許してやるよ」

陽翔はどこか楽しそうに言った。

「十二時発東京行き。まもなくの出発となります」

その時、東京行きの飛行機の出発時間が迫っていることを知らせるアナウンスが鳴り響いた。

「行かなきゃ。じゃあ、本当に。ばいばい」

私は手を振り、ゲートに向かって急いで向かい始めた。

「菫、頑張れよ。またな!!」

私がゲートをくぐり終えた時、声が聞こえた。
声の方を見ると、大きく手を振っている白澄がいた。
隣で陽翔も手を振っている。
陽翔はまだしも、白澄があんな大声で叫ぶなんて珍しい。

「じゃあね!!」

私も大きな声で答えて、飛行機に乗り込むための通路に入った。
自分の席を探して、着席する。
飛行機に乗るのは初めてなので、今更だが緊張してきた。
この広大な大地から初めて飛びたつのだ。
やっと、この大きな私を閉じ込めていた寒い島から出られる。やっと・・・・。
「それでは離陸します。シートベルトの着用を確認してください。」
私は飛び立つ飛行機の中から私が十八年過ごした大地を見下ろした。
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