白い菫が紫色に染まる時
【2013年高校三年の春 白澄 北海道】~彼と本音~
【2013年 高校三年生の春 白澄 北海道】

「何、泣いてんだよ」
「泣いてない」
陽翔はそうからかってきたが、俺は実際に泣いてなんかいなかった。悲しかったけど。

そう言うと、陽翔はそれ以上何も言ってこなかった。
泣いたのはあの日だけだ。九月に学校で菫からノートの切れ端のメッセージを貰った日。
授業中、一人で窓のほうを向きながら、情けないながらにも涙をこぼした。
あの時は、菫が俺の後ろではなく、前の席だったことに心底感謝したし、メモで伝えてくれて良かったと思った。
こんなダサいところを見せずにすんだ。
きっと、目の前で言われていたら、また菫を困らせるような態度を取っていたかもしれない。
メモだったおかげで、自分の感情を整理する時間があった。

彼女を気持ちよく送り出すために、少しでも心配させたくなかった。
これで、良かったんだ。
遠くに行ってしまうとしても、もう会えないかもしれなくても、これで良いんだ。
彼女の記憶の中に少しでも自分が残れるのなら。

< 25 / 108 >

この作品をシェア

pagetop