白い菫が紫色に染まる時
【2013年大学一年の春 菫 東京】~不安と出会い~
【2013年 大学一年生の春 菫 東京】

入学式を終えてからの大学生活は怒涛の日々だった。
慣れないスーツを着て、広い会場で話を聞いていた日は、一か月前のことなのに、遥か遠い昔のように感じる。
入学式の後は健康診断やらサークル勧誘で大学構内がずっとお祭りのように忙しかった。

私は、生活費を稼がなければならないので、私は入学式初日からバイトに勤しみ、それに加え、環境の変化に対応するのに必死で、疲弊しきっていた。

そして、五月。
授業が始まり、構内のお祭り騒ぎが収まり、静かな大学生活になった。
とりあえず、入学後から授業を始めるまでに必要な諸々の作業は終わったようだ。

「なんか、もう五月病かも・・・」

そんなことを言いながら、私の隣でラーメンをすすっている彼女は同じクラスの紅葉だ。
彼女とは授業がほとんど同じだったので、自然と一緒に行動するようになったのだ。
大学の友人の中で1番時間を共にしているのは、彼女だと思う。

「確かに、こっち来て一ヶ月くらいは疲れてたな。家に帰って、ご飯作る体力もなくて、食欲もないから、とりあえず冷凍食品の生活だった」

私はあの地獄の四月の日々を思い返しながら、味良し量多し値段安しと大学生のお財布に優しいラーメンをすする。

「私の言う五月病はそういう意味じゃないよ。新生活で体力がもたないっていうのもあるけど、勉強が面倒になっちゃったってこと。なんか受験が終わってから熱が冷めちゃったんだよね」

そして、彼女は、ラーメンの替え玉を注文し、二杯目とは思えないほど尋常ではないスピードで食べ始めた。
確かに、彼女は食欲の心配はなさそうだ。
初めて彼女とご飯を共にした時はこの大食い具合に驚いたが、今はもう慣れた。

「まあ、紅葉はサークルじゃなくて体育会に入ってるから。大変だよね」
「そうそう。もう練習が厳しくて、授業中でも寝ちゃうし・・。それに比べて、菫はちゃんと授業聞いてるよね~。えらい」
「まあ、正直寝そうになるときもあるけど・・」

実際、面白そうと思って取った授業が、実際に受けてみたら、想像していた内容と全然違うということがよくある。
そして、そのような授業は、聞いていても、日々の溜まった疲労が原因か眠たくなる。
けれども、高い学費を払っているため、眠ったらお金を捨てることになるので、必死に耐えている。

ただ、自分の好きな授業に関しては永遠に聞いても飽きない。
例えば、文学部の設置授業である芸術に関する授業だ。
私は、経済学部なので、文学部の授業は少ししか取れないけれども。
将来、安定した就職先に進むためには、一番偏差値の高い経済学部で経済の勉強をした方が良いだろうという安直な理由で、私は経済学部を受験した。
しかし、どうやら私の関心は全く別のところにあったらしい。

そんなこと、あの場所にいた時は気づきもしなかった・・・・。

「まあ、菫みたいにはできないけど、私は落単しないように頑張るわ。次も、同じ授業だよね?私が寝てたらつついて起こしてね。無理矢理にでも!」

彼女はこちらに体を思いっきり傾けて私の顔の目の前で強く念押しした後、その力強い勢いのままラーメンの汁を大胆に一滴残らず飲み干した。
スポーツ選手が塩分の多いラーメンのスープを飲み干しても大丈夫なのだろうかと心配になるが、食に関しては本人の自由なので、私が口出しすることではない。

「わかった、わかった」

紅葉は、いつも元気ハツラツで活発で、見ていて飽きない。
たまに元気がから回っているところも見かけるけれども。
私が、基本的にあまりテンションを上げることがないせいか、彼女の突き抜けたテンションの高さに笑顔にさせられる。

「頼れる友よ~!!!」
「大袈裟だよ」
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