白い菫が紫色に染まる時
【2013年 秋 菫 東京】~親しみと慣れ~
【2013年 秋 菫 東京】

楓さんから食材をもらうようになって、私は何度かお礼に作った料理の余り物をおすそ分けするようになった。
パックに入れた肉じゃがとか色々と・・・・。
彼は自分で料理をするのは面倒のようなので、お互いにお得な関係を築けていると思う。

そして、今日も私は肉じゃがの入ったパックを持って、楓さんの家に訪問しようとしていたのだが、インターホンを鳴らしても、応答がなかった。
留守中のようなので、私は諦め、家に戻ろうとした時、女性にしてはワントーン低い声に呼び止められた。

「楓に用事?」

声がした方を振り返ると、そこには黒いショートヘアの女性がいた。
年齢は二十代後半くらいだろうか。
赤のパンプスにトレンチコートを羽織っている。
ぱっと見て、質の良い服を着ていることがわかった。
グッチとかシャネルとかあからさまブランド品ではないが、着こなしている服の質が、見るからに、今まで私が出会った人達とは違う。
セレクトショップなどで売られていそうなものだ。

「あの・・・」

突然に声をかけられ、困惑して聞き返す。
この人は一体、誰なのだろう。

「あ、ごめんね。私このアパートに住んでる上原桜っていいます。あなたは?」
「遠野菫です。私もちょうど春に引っ越してきて。ここに住んでます。すいません、挨拶遅くなってしまい・・・、」

まさか、同じアパートの住人だったとは。
そういえば、桃李さんが私と蓮くんと楓さん以外にももう一人住んでいると言っていたような気がする。

「え~、嬉しい!!私がいない間にこんなかわいい子が来てたなんて!!」

口から出たお世辞ではなく、心から歓迎してくれていることが彼女の態度から伝わってきた。

「あ、ねえねえ。その肉じゃが美味しそうだね・・・。もし良かったら、貰ってもいい?久しぶりに家庭料理食べたい気分なんだよね。というか日本食が食べたい!」
「あ、はい。どうぞ、楓さんに渡す予定だったんですけど、いなかったので」

私はちょうど良かったと手渡そうとした。

「あ、でも、ただ貰うだけじゃ悪いわよね。代わりにこれあげる。」 
     
そう言って桜さんが差し出した紙袋の中にはあまり見たことのないフルーツや食材、紙包みに包まれた高そうなお菓子が大量に入っていた。

「え、こんなにいいんですか?」

肉じゃがの対価としては大きすぎるように感じた。

「いいのよ、いいのよ。最近、仕事の都合で長期の海外出張に行ってたんだけどね。それ全部向こうで頂いたものだから」
「海外ですか・・・」

だから、一度も会ったことがなかったのかと納得した。

「桜ちゃん」
「あ~、桃李さん!!ただいまです」
「おかえりなさい」
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