白い菫が紫色に染まる時
【2015年 冬 菫 東京】~孤独と哀しみ~
【2015年 冬 菫 東京】
楓さんはインターンなどで忙しい日々がずっと続いていた。
ただ、月一の鍋を囲む会は途切れることなく続いていて、仕事がない時は、桜さんも参加している。
そして、今日はそんな多忙だった楓さんの就職先決定祝いのため豪華な鍋を囲む会をすることになっていた。
三年の三月で就活先が決定するのはかなり速いほうだろう。
インターンで作った人脈と資格の両方を活用して内定をこぎ着けたらしい。
楓さんは、行動力と自分の輪を広げる力がすごいのだと思う。

そして、今日は鍋の食材を買いに大学の授業終わりに蓮くんとスーパーに寄ってから帰ることになっている。
しかし、授業が終わっても蓮くんの周りには人だかりができており、なかなか動ける状態ではなかった。
今は、飲み会に誘われているようだ。あの中を割って入り、声をかける勇気はなかったので、私はラインで「先にスーパー行ってるね」とだけ伝えて、教室を出たが、校舎を出てすぐに後ろから私の名前を呼ぶ声が聞こえた。

ラインを見て走って追いかけてきてくれたようだ。少し息が上がっている。

「菫。ごめん」
「いや、大丈夫だよ。そっちこそ抜け出しても大丈夫だったの?」
「ああ、大丈夫」
「人気者も大変だよね。まあ、蓮くんはみんなに優しいし、そうなるのは必然か・・」

きっと彼の整った顔も理由の一つだろうが、それは本人に言う必要のないことだろう。

「僕は、人に興味が持てないだけだよ」
「え?」
「昔から広く浅い交友関係しか持てないんだよね。それは多分、僕が誰かに興味を持てないから。それで、一見友人が多いように見えるだけだよ」

確かに、人に興味を持たないということは、ある意味で一番差し障りのない交友関係を築く上で有効なのかもしれない。
でも、それってすごく寂しいことではないか。

「私とか楓さんとかも広く浅いうちの中にいるの?」
「いや・・・・、それは違う」
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