白い菫が紫色に染まる時
【2017年 梅雨 菫 東京】~再会と揺れる思い~
【2017年 梅雨 菫 東京】  
     
迎えた結婚式当日。
陽翔に合わせて、東京で開かれることになったようだ。場所は表参道だ。

「行ってきます」
「楽しんできて。あ、ちょっと待って」

最寄り駅まで送ってくれた蓮くんが車から降りようとした私を呼び止めた。

「今日は、夜に冷え込むみたいだから。持ってきな」

そう言って、紫のマフラーを私に差し出した。
私はあのアパートでのことを思い出して笑ってしまった。

「三度目だね。これ借りるの」
「菫が寒い時に限って、いつも忘れるから」

二人で笑ったあと、私は車のドアを閉めて駅に向かった。
電車に揺られて二十分ほど。
そして表参道駅から五分ほどのところに式場はあった。
式場に入ると、案内された席には既に会社の営業部の人たちが数人いた。

「あれ、遠野さんも招待されてたの?」
「はい、陽翔とは幼馴染で」
「へえ~、そうなんだ。知らなかったわ」

営業の人たち全員と話したことがあるわけではないので、ここにいて馴染めるか不安になったが、私の隣が一年目の時お世話になっていた先輩だったので、疎外感を感じずその場に馴染めた。

「新郎新婦、入場です」

壮大なベルの音を合図にピアノが演奏される。
久しぶりに見た日向はとても綺麗だった。
五年も経つと、人はこんなにも成長するのかと、まるで親のような気持ちになった。

その後、チャペルから式場に移動すると、それぞれの机に新郎新婦が回ってきた。

「菫ちゃん・・・・」
「日向、おめでとう」

久しぶりに見た日向は綺麗になっていた。ウェディングドレスもよく似合っている。
しかし、そんな大人っぽいウェディングドレスとは反対に、目をくしゃくしゃにして涙を流していた。

「え、ちょっと大丈夫?」
「菫ちゃん・・・、元気そうでよかった」

見た目は大人っぽくなっても、こうやって甘えん坊なところは変わっていなようだ。

「菫、白澄ともう話した?」

陽翔は日向の背中をさすりながら、聞いてきたが、白澄はずっと親族の席に固まっているため話しかけようがない。
白澄の家族だけならいいが、いとこや祖父や祖母がいる机に話しかけに行く勇気はない。
それを言い訳にして話しかけに行っていないことは自分でもわかっている。

「なんだよ。せっかくの再会なんだからちゃんと話せよ」
「わかってるって・・・・」

私が微妙に曖昧そうな表情を浮かべている私に向かって、陽翔は痺れを切らしたようだった。
そして、二人は次の机に移動していった。
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