白い菫が紫色に染まる時
「ただいま。起きてたの?」
「うん。待ってたかったから。誰にも迎えられないで家に帰るって寂しいでしょ」

それは、私がそうだから・・・。
私自身、もう寝てしまっているだろうなと思いながら帰宅したときに蓮くんが起きて迎えてくれていると嬉しくなる。
寂しさが和らぐ。

だから、彼にも同じことをしたかった。
すると、突然彼の手がこちらに伸びてきて、抱きしめられた。

「ん?どうしたの?」

結婚してから、スキンシップを取ることはなかった。それなのに、突然抱きしめられたので驚いた。
「ごめん。なんか抑えられなくて・・・。ありがとう」

耳元で蓮くんが話しているので少しくすぐったい気持ちになる。物理的にも心理的にも。

「私こそ、蓮くんのおかげで今があるようなもんだし、感謝してるよ」

何だか、疲れているように見え、私は彼の背中をあやすように片手で叩いた。
それにしても、急にどうしたのだろう。何かあったのだろうか。

「あのさ、冬の長期休暇で海外に行かない?」

彼はそう言うと、私を抱きしめる腕の力をゆるめた。

「え、海外?」
「そう。結婚してから旅行とかお互いしてないし。ハワイとかオーストラリアとか、もっと暖かい穏やかな場所に菫と行きたいなって・・・、思ったんだけど。どうかな?」

彼は私の様子を伺うように聞いてきた。

「いいね。行きたい、楽しそう」
「じゃあ、決まりだ」

蓮くんは私をいつも外に大きな自由なところへ連れ出してくれる。
一人ではここまで来られなかった。私一人で生きていたら、こんなに自由な場所まで来られなかったと思う。
だから、彼とならずっと暖かい場所で共に生きていけるような気がするのだ。
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