白い菫が紫色に染まる時
【2018年 冬 菫 ハワイ 東京】~暖かい場所と動揺~
【2018年 冬 菫 ハワイ 東京】

それから、二人で旅行の予定を立てた。
お互いに休みが取れる正月にリゾート地であるハワイに行くことにした。
年明けでお祭り騒ぎをするようなストリート系の場所よりゆっくりできるところに行きたかったのだ。
それについてはお互いの意見が一致した。
旅行の日程が具体的に決まっていくにつれて、楽しみな気持ちがどんどん積もっていった。
こんなに決まった日を待ち遠しく思うのは久しぶりだったと思う。

十二月には勤めている出版社が主催する漫画のイベントの企画関連の仕事で忙しく、怒涛の日々だったが、それもなんとか乗り切った。
蓮くんも年末に入る前に終わらせなければならない大きな仕事を無事に終えたようで、清々しい気持ちで日本を旅立った。

五泊六日の旅行だったので、時間に余裕もあり、ゆったりとハワイという土地で時間を過ごしていた。
日本では見たことのない雰囲気を纏った建物に囲まれてショッピングをしたり、美味しい食べ物を食べたりした。
ボリューミーなものが多く、帰ったころには体重が増えているだろうななんてふと思ったが、せっかく来たからには食べないともったいないと、自分に言い聞かせた。

何より、私がハワイで一番と言っていいほど満喫したのはホテルの部屋のテラスで海を見ながら海風に浸りお酒を蓮くんと飲むことだった。
特に夕方頃の景色は何とも言えない美しさだった。
遥か向こうの方に太陽が沈んでいくのが見える。濁りのない海が赤く染まっていく様子を眺める時間が至福の時であった。
暖かく心地よい。

これは私がずっと求めていたもののような気がした。

今まで、がむしゃらに暖かい場所を求めていた。
その暖かい場所は、ずっと私の中で抽象的なイメージでしかなかったけれど、ここで初めてはっきりと形にして理解できた。

私はこの時間を求めてここまで来たのだと。

普段、寝室は別なのだが、この旅行では部屋の都合上、同じベッドで眠った。
初めて一緒に眠るので、緊張していなかったといえば嘘になるだろう。
けれど、それも最初のうちだけで、すっかり蓮くんの隣で眠ることに安心感を抱いていた。

直接、触れているわけではないけれど、そばにいてくれるだけで、彼のぬくもりを感じた。
人のぬくもりってこんなにも暖かいものだったのだと初めて知った。

ハワイにいた約一週間はとても快適で、また旅行しようということになった。
そして、出発した時よりお土産などで重くなった荷物を抱えて、帰宅した。
蓮くんは帰宅してリビングに荷物を置くなり、ポストを見に行くと言ってエントランスに再び向かった。
もう、年賀状文化が廃れてきているとはいえ、年配の方はまだ送ってきたりするのだ。
それを確認しなければならない。

私が荷物をほどいていると、思っていたより早く蓮くんが戻ってきた。かなり、手にハガキや荷物やらを抱えている。

「なんかチーズとか頼んだ?これ菫の?」
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