白い菫が紫色に染まる時
そう言って彼は一つの小包を見せてきた。
そこには「大川チーズ工場」と書いてある。
白澄の工場で作っているチーズだ。
ちょうど注文から一週間ほどで発送されるとネットに書いてあったので、私は帰ってきたときにちょうど届くように旅行に行く前に頼んでおいたのだ。

「そうそう、頼んだ。ありがとう」

私はそう言ってその小包を受け取る。
思えば、小さいころ工場には何度も訪れたが、そこで作られているものを食べたことがない。これが初めてだ。

「それって、もしかして菫の地元から?」

蓮くんが不思議そうな顔をして聞いてきた。

「そう。私の幼馴染がチーズ工場を継いで経営してるの。ほら、私六月に結婚式に参列してきたでしょ。その時に再会して、ネット販売してるからぜひ買ってねって言われて」

白澄が今作っているチーズがどんな感じなのか楽しみだ。
私は旅行帰りということもあり、すっかり気持ちが浮ついており、夢の中にいる心地だった。
そんな私の隣でハガキを仕分けていた蓮くんがある一つのはがきを目に留めた。

「どうしたの?」

私はそう言ってそのハガキを覗き込んだ。
そのハガキには白澄の写真が印刷されていた。
白澄とウェディングドレスを着た女性の写真だ。
そこには婚約したことをご報告致します。という文字が印字されていた。
きっと、挙式は親戚だけで済ませて友人にはあとから手紙などで報告するパターンだろう。

私は突然のことに驚いて一瞬固まってしまった。
けれど、蓮くんが気づくほど不自然じゃなかったはず。
すぐに、そのはがきの意味を理解した。

「これは、菫宛てだよね。北海道からだけど・・・」
「え~、結婚したんだ。知らなかったな」

その相手の女性をどこかで見たことがあるような気がした。
けれど、記憶をいくら思い起こしてみても、どこで彼女を見たのか思い出せなかった。

「これって、その幼馴染?」
「え?」
「さっき、菫が言ってたチーズ工場継いだっていう・・・・」
「ああ、そう。その幼馴染だよ」

私はその一枚のはがきを受け取って、自分の部屋のベッドテーブルの上に置いた。
蓮くんに見せたくなかったのだ。
そして、私はリビングに戻り、何食わぬ顔で荷解きを再び始めた。

一月の仕事始めから一週間経った金曜日。
久しぶりに陽翔といつもの居酒屋で飲みに行っていた。
話題はもちろん白澄の結婚のことだ。私からその話題を切り出した。
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