白い菫が紫色に染まる時
年明けに突然報告のはがきが送られてきたことを。
私が急に知らされて驚いたと言うと、陽翔はそのことに対してえっ?と意外そうな表情をした。

「俺には秋ごろにラインで連絡きたぞ。まあ、改めてハガキの報告も年明けに送られてきたけど・・・・・・」
「え?なんで私にはラインなかったんだろう」
「まあ、向こうにも色々事情があるんじゃねえの?」

旅行から帰ってきて、夢心地だった私にとってあのはがきは青天の霹靂だった。

「お前も、本当はわかってるんじゃねえの?わからないふりしてるだけで・・・・」
「え?何を」

私は慌てて机にあったビールをグイっと一口飲む。

「白澄がお前のこと好きだったってこと。だから、報告しづらかったんじゃねえの」

彼は机の上に置いてあるものに手を付けずに、真っ直ぐ見つめてきた。
私は思わず、目を逸らしてしまった。

「でも、それは高校の時の話で、今は関係ないじゃん」

そうだ。白澄に告白されたのだってかなり、昔の話だ。

「白澄は今だって、お前の・・・・・。あ、いや、なんでもない。こんなこと、今のお前に言うべきじゃねえよな」
「え?」

今、何を言おうとしたのか。

「そんなことより、今日はもうかなり遅いけど大丈夫なのかよ。旦那心配するんじゃねえの?」

時計は十一時半を指していた。いつもなら、十字半くらいで引き揚げて帰宅する。

「今日の夜から土日またいで出張だから。今日は遅くまで大丈夫だよ」

いつもは家に帰ると蓮くんがいると思うと、心配させないように早く帰りたいという気持
ちになるが、家にいないなら早く帰っても寂しいだけだ。

「仕事始め早々に休日出張なんて大変だな」
「まあ、私たちも担当している漫画家さんが締切ギリギリだったら、土日を捧げることになるし。周りからは大変だと思われてるよ」
「確かにな」

その後、私たちは二人で飲み続けた。
けれど、自分の足で帰れなくなるほどは飲むなどバカなことはしない。
気持ちが良いくらいの感覚でお酒は止めといた。

陽翔は日ごろの疲れを晴らしたいのかまだ飲みたがっていたが、日向が家で待っているのだから早く帰ってやれと言って、無理矢理この飲み会を打ち切った。
今日は遅くまで飲めると陽翔に伝えて、こんな時間まで付き合わせた私が言えることではないが。
私は駅で陽翔と別れて、家に一人帰宅した。

「ただいま」といつもの癖で言ったあとに、今日は蓮くんがいないことを思い出す。   
夜に一人でこの家にいるのは、寂しい。
いつもより、この空間が広く感じる。
私はその寂しさを紛らわすために、速攻でお風呂に浸かり就寝の準備をした。

そして、ベッドに入り寝ようとした時、今日の陽翔との会話を思い出した。白澄の結婚の話。
私は確かベッドテーブルの上にあのハガキを何日間も置いたままにしていたことを思い出し、そこら辺を暗がりの中、手探りで探した。
それでも、見つからないので電気を付けてみたが、やはり見つからない。

「あれ、どこにやったんだろう・・・」

無意識にどこかへかたしてしまったのだろうか。全く記憶にないけれど。
もういいや。
持っていても、私の気持ちをかき乱すだけだし。
私はそのハガキを探すことを諦め今度こそ眠りに入った。
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