白い菫が紫色に染まる時
その問いに対して、電話越しでもわかるほど白澄は息をのみ込んだ。
いったい何を言い出そうとしているのか。
そんなに言い出しづらいことなのだろうかと私は一気に身構えた。

「あのさ・・・・・・・、」
「え?」

その後、色々と大事なことを話していたと思うが私の耳には全く届かなかった。
放心した状態で私はエレベーターに乗り、家のドアの前まで来てしまった。
私はそのドアの前で深呼吸をする。彼に動揺を悟られてはいけない。
いつかは言わなければならないだろうけど、彼に相談するのはまだ早いと思った。
自分の中でさえ、その事実を整理できていないのに、彼に悟られるわけにはいかない。

意を決し、ドアを開けた。

「ただいま・・・」

そう言ってリビングまで行くと彼は料理をしている最中だった。

「おかえり。ちょうど、完成したところだよ」

彼は鍋をダイニングテーブルに置く。

「今日は鍋?」
「うん。今日は雪が降るかもしれないって天気予報が言ってたから、鍋がいいかなと思って」
「ありがとう。うん、美味しそう」

私は、キッチンに行って彼の作った鍋を覗き込んだ。
早く食べたい気持ちを抑えて、手を洗い鞄とコートをかたして、ようやく席に着く。

「いただきます」
「鍋、久しぶりだよね」
「そうだね、ここ最近は作ってなかったよね。お互い」  
             
鍋は割と作るのに手間がかかる。
それをわざわざ今日作ってくれたのだろう。
雪が降ると知って。

「いいね。また、カニ鍋とかしたいね」

あのアパートで月に1度行なわれていた鍋パーティーを思い出した。

「あ~、懐かしいね。みんなでやったね」
「うん」

私は蓮くんと話しながらも、頭の片隅では、さきほど言われたことが頭を占めていた。
それを隠そうとし、いつも通りを装っていたけれど、それは蓮くんには通用しなかったみたいだ。
一瞬の無言が訪れた時に隠していたことに触れられた。

「菫。なんかあったでしょ」

動かしていた箸が止まる。

「あの結婚式の夜と、それと・・・・。あの雪の日と同じ顔している。そういう時はだいたい、昔のことが気にかかってそれに苦しめられている時」
「心配しすぎ。なんもないよ」

私は手元にあったお酒を一口飲む。

「菫は、動揺しているとき口元を隠す癖がある。飲み物とかマフラーとかで・・・。何年一緒にいると思ってるの?わかるよ。隠しても」
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