青春の坂道で
午前0時を過ぎて先輩が暖簾を仕舞うと俺は綾子と一緒に外へ出た。 「暗いなあ。」
「真夜中だから。」 「綾子ちゃん まともなことを言わないでよ。」
「ごめんなさい。 私正直だから。」 今夜も二人して酔っている。
街灯がぼんやりと照らす夜道を並んで歩いている。 ホームレスの連中はどっかに隠れているらしい。
公園前を避けてコンビニを通り過ぎる。 そしたらよく立ち寄る古本屋が在る。
その隣は空地で置き忘れたらしいベンチが一つ置いてある。 昼間ならここで誰かが本を読んでいることも有る。
ベンチの裏には雨風に晒されてボロボロになった映画のポスターが何枚も転がっている。 ずいぶん昔の映画だね。
「明日、ゼミは有るの?」 「ああ、昼からです。」
「そっか。 じゃあもうちっと遅くても大丈夫だな。」 「一郎さんは?」
「俺は休みなんだよ。 どっかで講演会をやるとか言ってて。」 「へえ、そうなんだ。」
グルリト回り歩いて居酒屋に戻ってきた。 「戻ってきちゃったね。 あはは。」
「真夜中のデートもいいもんですねえ。」 「なんかドラキュラみたいだな。」
「えーーー? 私ってホラーはダメなんですよ。」 「そうなの? まあ俺も好き好んで見たいとは思わないな。」
「ほらーーーーー。」 俺たちが話していると先輩がドアを開けて出てきた。
「お二人さん 帰ったんじゃなかったの?」 「帰ったつもりなんだけど回って戻ってきたわけですよ。」
「まあ冷えてるだろうから中に入れ。 今なあ、みんなで夜飯を食ってるところだから。」 「いいんですか?」
「さあさあ、綾子ちゃんもどうぞ。」 先輩に引き込まれるようにおれたちも中へ入った。
バイト連中はビールを飲みながら残った煮物や唐揚げを食べている。 「ヒューヒュー、一郎の彼女のお出ましだぞーーー。」
「馬鹿。 騒ぐな。」 「いいじゃないっすか。 みんな出来上がってるんだから。」
「出来上がってるからって綾子ちゃんに手を出すんじゃねえぞ。」 「先輩が一番危ないんじゃ?」
「そういうお前が一番危ないんだよ。 なあ笠原。」 「そうだそうだ。」
居酒屋は閉店後も賑やかなままだ。 「綾子ちゃんもどうぞ。」
先輩がコップを持ってきた。 「いや、私は、、、。」
「後は一郎が面倒を見るから任せてよ。」 そう言われて綾子はコップを受け取った。
世間ではコロナの大騒動もやっと落ち着いて経済活動が上向きになってきたところ。 それにしてもひどかったなあ。
最初の頃はバタバタと死人が出て国中で泡を噴いたもんだ。 死んでも近寄れないから葬式だってまともにやれなかった。
死んだとなると袋に詰められて消毒液に沈められ、そのまま火葬される。 遺族の元へ帰るのはそれからだった。
個人病院は受け入れを拒否し続けたから大病院は何処も大変だったよな。 ベッド数も多いわけじゃないから。
その後で医療体制の拡充を図るとか言って予算が組まれたけどそんなに使われなかったよな。 なぜだろう?
やっぱり日本医師会なのかなあ? メンツだけの医者が多いもんなあ。
あっちでこっちで「薬を出せばいいと思っている三流大藪医者が多過ぎるんだ。」って嘆いている人たちがたーーーーーっくさん居るからなあ。
そんな連中はさっさとゴミにしてもらいたいもんだ。 医療ってそんなもんじゃねえだろう?
いつものテーブルでいつものように綾子と向き合って静かに飲んでいる。 山村隆が冷ややっこと鯖の煮付けを持ってきた。
「この煮付けは美味いぞー。 先輩が精魂込めて作った特急品だから。」 「隆よ、持ち上げ過ぎだって。」
「これくらい持ち上げないと給料増やしてくれないから。」 「こらこら、、、。」
「お二人さん ごゆっくりどうぞ。」 隆が戻ると隅のほうで宴会が始まった。
「またやってら、、、。 飽きないもんだなあ。」 「そんなに?」
「ああ。 毎晩これだよ。」 「すごーい。」
「それで後は麻雀大会をやって朝までみんなで雑魚寝するんだ。 男ばかりだからなあ。」 「面白そう。」
「そうでもないぜ。 うるさいし汗臭いし絡んでくるし、、、。」 「へえ、、、。」
居酒屋は今夜も賑やかだ。 時間が経つのも忘れそうだな。
1時半を過ぎた頃、「そろそろやるか?」と誰かが言った。 「やろうじゃねえか。 昨日の負けを取り返すんだ。」
「一昨日も負けといてか?」 「今日は取るぞ。」
片付けを済ませたバイト連中が二階へ上がっていく。 「一郎はどうする?」
「俺はこのまま帰ります。」 「そうだな。 そのほうがいいな。 じゃあお休み。」
先輩に送られて俺たちは再び外へ出た。
今夜はずいぶんと飲んだもんだ。 綾子も福岡生まれだっていうからちょうどいいとは思うけど、、、。
夜道を歩いていると珍しくパトカーが走ってきた。 「何事?」
どうやらパトカーは公園のほうに向かったらしい。 面倒くさいことにならなきゃいいが、、、。
その後を追うようにもう一台のパトカーが走っていった。 サイレンを鳴らさない所を見るとよほどに慎重に対応しているのかも?
「今夜はどうする?」 「夜が明けるまで部屋に居させてください。」
「そのほうがいいかもしれねえな。 やばそうだし。」 公園通りを逸れようとした時だった。
「お前、薬やってるだろう? タレコミが有ったんだよ。」 「何だと? 何処に証拠が有るんだ!」
「証拠ならそこに有るじゃないか。 これは売人から貰った袋だよな?」 去年も引っ張られたおっさんだ。
「知らねえよ。 あの男がここで落としていったんだ。」 そいつが指差しているのは俺だったらしい。
「いい加減なことを言うなよ。 去年も同じような嘘を吐いてたよなあ お前。」 「よし。 乗せろ。」
(またやってんのか。 飽きねえおっさんたちだなあ。」 俺は綾子を庇いながら下宿へ入っていった。
廊下はほぼ真っ暗。 油断すると空き缶や瓶を蹴り飛ばすから神経を使う。 一階の連中は兎にも角にもマナーがなっとらんでなあ。
「ここは危ないなあ。 空き缶が転がってるから気を付けてね。」 「はい。」
綾子は俺にくっ付いて歩いている。 階段を上がっていると上のほうで笑い声がした。
「あいつら、まだ起きてたのか。 しょうもねえやつらだなあ。」 「高校生?」
「いやいや、専門学校生だよ。 それだけでいい気になってんだ。」 「そっか。」
二階に上がると一人の男が階段を駆け下りていった。 「危ないなあ。 何も無きゃいいけど、、、。」
そう言って間もなく、ガシャンという音が聞こえた。 「窓でも割ったんだな。 おばさんも大変だなあ。」
「こらーーーーー! 何時だと思ってるんだ! 暴れないでよ!」 「やっちまったか。」
俺は階下の騒ぎを聞きながら部屋に入った。 「綾子ちゃんはどうする?」
「眠くなってきました。」 「じゃあ布団を出すよ。」
狭い部屋の床の上に布団を広げる。 そこに綾子が寝転がったのを見届けてから俺は押し入れに潜り込んだ。
押し入れに寝るなんてドラえもんみたいだなあ。 どら焼きか、食べたいな。
明日にでも綾子と買いに行くか。 あのスーパーにも売ってたはずだから。
綾子の寝息が聞こえる。 幸せそうだなあ。
福岡は何処に住んでたんだろう? 会ったことは無い。
ちなみに俺は筑豊のど真ん中、飯塚だよ。 昔は良かった。
石炭が掘れてる頃は久留米もびっくりするくらいの都会だった。
それがさあ掘らなくなったら一気に寂れちまったんだ。 オートレース場が在るから何とかなってるけどさ。
それでも福岡ボートには勝てない。 あっちのほうが優等生だ。
でも考えるとさあ、福岡って四大ギャンブルが全部揃ってるんだよな。 福岡市に競艇、北九州市に競馬、飯塚市にオートレース、久留米市に競輪だもん。
すごいよなあ。 ギャンブルをしに県内を回れるなんて。
俺はギャンブル何てやったこと無いけどさあ、一度ドカーンと勝っちまうとやめられなくなるんだってね。
だから遊ぶならトントンがいいって誰かが言ってた。 ±0がいいんだって。
そうかもなあ。 まぐれでも一回で300万なんて当てようもんならもっと稼ぎたくなるもんなあ。
それで闇に嵌っていく。 それがギャンブル依存症だ。
怖いもんだぜ まったく。
「真夜中だから。」 「綾子ちゃん まともなことを言わないでよ。」
「ごめんなさい。 私正直だから。」 今夜も二人して酔っている。
街灯がぼんやりと照らす夜道を並んで歩いている。 ホームレスの連中はどっかに隠れているらしい。
公園前を避けてコンビニを通り過ぎる。 そしたらよく立ち寄る古本屋が在る。
その隣は空地で置き忘れたらしいベンチが一つ置いてある。 昼間ならここで誰かが本を読んでいることも有る。
ベンチの裏には雨風に晒されてボロボロになった映画のポスターが何枚も転がっている。 ずいぶん昔の映画だね。
「明日、ゼミは有るの?」 「ああ、昼からです。」
「そっか。 じゃあもうちっと遅くても大丈夫だな。」 「一郎さんは?」
「俺は休みなんだよ。 どっかで講演会をやるとか言ってて。」 「へえ、そうなんだ。」
グルリト回り歩いて居酒屋に戻ってきた。 「戻ってきちゃったね。 あはは。」
「真夜中のデートもいいもんですねえ。」 「なんかドラキュラみたいだな。」
「えーーー? 私ってホラーはダメなんですよ。」 「そうなの? まあ俺も好き好んで見たいとは思わないな。」
「ほらーーーーー。」 俺たちが話していると先輩がドアを開けて出てきた。
「お二人さん 帰ったんじゃなかったの?」 「帰ったつもりなんだけど回って戻ってきたわけですよ。」
「まあ冷えてるだろうから中に入れ。 今なあ、みんなで夜飯を食ってるところだから。」 「いいんですか?」
「さあさあ、綾子ちゃんもどうぞ。」 先輩に引き込まれるようにおれたちも中へ入った。
バイト連中はビールを飲みながら残った煮物や唐揚げを食べている。 「ヒューヒュー、一郎の彼女のお出ましだぞーーー。」
「馬鹿。 騒ぐな。」 「いいじゃないっすか。 みんな出来上がってるんだから。」
「出来上がってるからって綾子ちゃんに手を出すんじゃねえぞ。」 「先輩が一番危ないんじゃ?」
「そういうお前が一番危ないんだよ。 なあ笠原。」 「そうだそうだ。」
居酒屋は閉店後も賑やかなままだ。 「綾子ちゃんもどうぞ。」
先輩がコップを持ってきた。 「いや、私は、、、。」
「後は一郎が面倒を見るから任せてよ。」 そう言われて綾子はコップを受け取った。
世間ではコロナの大騒動もやっと落ち着いて経済活動が上向きになってきたところ。 それにしてもひどかったなあ。
最初の頃はバタバタと死人が出て国中で泡を噴いたもんだ。 死んでも近寄れないから葬式だってまともにやれなかった。
死んだとなると袋に詰められて消毒液に沈められ、そのまま火葬される。 遺族の元へ帰るのはそれからだった。
個人病院は受け入れを拒否し続けたから大病院は何処も大変だったよな。 ベッド数も多いわけじゃないから。
その後で医療体制の拡充を図るとか言って予算が組まれたけどそんなに使われなかったよな。 なぜだろう?
やっぱり日本医師会なのかなあ? メンツだけの医者が多いもんなあ。
あっちでこっちで「薬を出せばいいと思っている三流大藪医者が多過ぎるんだ。」って嘆いている人たちがたーーーーーっくさん居るからなあ。
そんな連中はさっさとゴミにしてもらいたいもんだ。 医療ってそんなもんじゃねえだろう?
いつものテーブルでいつものように綾子と向き合って静かに飲んでいる。 山村隆が冷ややっこと鯖の煮付けを持ってきた。
「この煮付けは美味いぞー。 先輩が精魂込めて作った特急品だから。」 「隆よ、持ち上げ過ぎだって。」
「これくらい持ち上げないと給料増やしてくれないから。」 「こらこら、、、。」
「お二人さん ごゆっくりどうぞ。」 隆が戻ると隅のほうで宴会が始まった。
「またやってら、、、。 飽きないもんだなあ。」 「そんなに?」
「ああ。 毎晩これだよ。」 「すごーい。」
「それで後は麻雀大会をやって朝までみんなで雑魚寝するんだ。 男ばかりだからなあ。」 「面白そう。」
「そうでもないぜ。 うるさいし汗臭いし絡んでくるし、、、。」 「へえ、、、。」
居酒屋は今夜も賑やかだ。 時間が経つのも忘れそうだな。
1時半を過ぎた頃、「そろそろやるか?」と誰かが言った。 「やろうじゃねえか。 昨日の負けを取り返すんだ。」
「一昨日も負けといてか?」 「今日は取るぞ。」
片付けを済ませたバイト連中が二階へ上がっていく。 「一郎はどうする?」
「俺はこのまま帰ります。」 「そうだな。 そのほうがいいな。 じゃあお休み。」
先輩に送られて俺たちは再び外へ出た。
今夜はずいぶんと飲んだもんだ。 綾子も福岡生まれだっていうからちょうどいいとは思うけど、、、。
夜道を歩いていると珍しくパトカーが走ってきた。 「何事?」
どうやらパトカーは公園のほうに向かったらしい。 面倒くさいことにならなきゃいいが、、、。
その後を追うようにもう一台のパトカーが走っていった。 サイレンを鳴らさない所を見るとよほどに慎重に対応しているのかも?
「今夜はどうする?」 「夜が明けるまで部屋に居させてください。」
「そのほうがいいかもしれねえな。 やばそうだし。」 公園通りを逸れようとした時だった。
「お前、薬やってるだろう? タレコミが有ったんだよ。」 「何だと? 何処に証拠が有るんだ!」
「証拠ならそこに有るじゃないか。 これは売人から貰った袋だよな?」 去年も引っ張られたおっさんだ。
「知らねえよ。 あの男がここで落としていったんだ。」 そいつが指差しているのは俺だったらしい。
「いい加減なことを言うなよ。 去年も同じような嘘を吐いてたよなあ お前。」 「よし。 乗せろ。」
(またやってんのか。 飽きねえおっさんたちだなあ。」 俺は綾子を庇いながら下宿へ入っていった。
廊下はほぼ真っ暗。 油断すると空き缶や瓶を蹴り飛ばすから神経を使う。 一階の連中は兎にも角にもマナーがなっとらんでなあ。
「ここは危ないなあ。 空き缶が転がってるから気を付けてね。」 「はい。」
綾子は俺にくっ付いて歩いている。 階段を上がっていると上のほうで笑い声がした。
「あいつら、まだ起きてたのか。 しょうもねえやつらだなあ。」 「高校生?」
「いやいや、専門学校生だよ。 それだけでいい気になってんだ。」 「そっか。」
二階に上がると一人の男が階段を駆け下りていった。 「危ないなあ。 何も無きゃいいけど、、、。」
そう言って間もなく、ガシャンという音が聞こえた。 「窓でも割ったんだな。 おばさんも大変だなあ。」
「こらーーーーー! 何時だと思ってるんだ! 暴れないでよ!」 「やっちまったか。」
俺は階下の騒ぎを聞きながら部屋に入った。 「綾子ちゃんはどうする?」
「眠くなってきました。」 「じゃあ布団を出すよ。」
狭い部屋の床の上に布団を広げる。 そこに綾子が寝転がったのを見届けてから俺は押し入れに潜り込んだ。
押し入れに寝るなんてドラえもんみたいだなあ。 どら焼きか、食べたいな。
明日にでも綾子と買いに行くか。 あのスーパーにも売ってたはずだから。
綾子の寝息が聞こえる。 幸せそうだなあ。
福岡は何処に住んでたんだろう? 会ったことは無い。
ちなみに俺は筑豊のど真ん中、飯塚だよ。 昔は良かった。
石炭が掘れてる頃は久留米もびっくりするくらいの都会だった。
それがさあ掘らなくなったら一気に寂れちまったんだ。 オートレース場が在るから何とかなってるけどさ。
それでも福岡ボートには勝てない。 あっちのほうが優等生だ。
でも考えるとさあ、福岡って四大ギャンブルが全部揃ってるんだよな。 福岡市に競艇、北九州市に競馬、飯塚市にオートレース、久留米市に競輪だもん。
すごいよなあ。 ギャンブルをしに県内を回れるなんて。
俺はギャンブル何てやったこと無いけどさあ、一度ドカーンと勝っちまうとやめられなくなるんだってね。
だから遊ぶならトントンがいいって誰かが言ってた。 ±0がいいんだって。
そうかもなあ。 まぐれでも一回で300万なんて当てようもんならもっと稼ぎたくなるもんなあ。
それで闇に嵌っていく。 それがギャンブル依存症だ。
怖いもんだぜ まったく。