【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


 すると、レックスがオリアーナの腕を掴んできた。

「お前が両親からひどい仕打ちを受けていたこと、ずっと不憫に思っていた。僕も夫妻が怖くてお前と別れるしかなかったんだ。……後悔してる。あっちで少し話そう。オリアーナ」
「いや、それはちょっと……」

 露骨に怪訝そうな顔をしてみるが、全く通用しない。レックスはオリアーナを社交界で散々小馬鹿にしてきた。しかし、彼女が聖女に選ばれてから、世間はレックスの方を非難するようになり立場を失ってしまったのだ。だからオリアーナと寄りを戻して、自分の名誉を挽回しようという魂胆なのだろう。

 腹が立つを通り越して呆れ果てていたら、また面倒な人が登場した。

「姉さんからその汚らわしい手を離していただけますか。人間のクズが」
「人間のクズ」

 ストレートすぎる悪口にぎょっとするレックス。レイモンドはこほんと咳払いして続けた。

「おっと失礼。つい心の声が漏れてしまいました。人間のクズ、ではなく人間のゴミに訂正させていただきます」
「いやそれ……変わらない気が」

 レイモンドはレックスの手をオリアーナから引き剥がし、人好きのする笑顔を貼り付けたままぐちぐちと嫌味を言う。

「今更何のつもりです? 婚約者だったとき、散々姉さんのことを小馬鹿にしていたくせに、聖女になった途端手のひら返しですか……。気持ちが悪いので、姉さんの視界の半径五百メートル以内に近づかないでいただけます? というか同じ空間で呼吸しないでいただけますか? あなたが吐いた空気を姉さんが吸っていると思うだけで虫唾が走るので」
「痛だだだっ、痛いっ、手、離し――」
「次に姉さんに無礼を働いたらこの手、へし折りますよ」

 しかし、すでにレイモンドが握るレックスの腕はギチギチと音を立てていて、今にも折れてしまいそうな勢いだ。レイモンドは姉のことになると周りが見えなくなるところがある。

「おいおい、そこまでにしろよシスコン。そんな腕、折る価値もないんだからさ!」

 そこに割り込んで来たのは、リヒャルドだった。リヒャルドはオリアーナを一旦上から下までチラ見したあと、「綺麗だ……」と呟いた。しかし、すぐに首を横にぶんぶんと振って、決まりよく笑った。

「こいつらのことは俺に任せてくれ! ほら、行くぞ。レックスにレイモンド!」

 リヒャルドは二人と肩を組み、強引にどこかに連れて行った。
 残されたオリアーナとセナは顔を見合せて苦笑する。

「なんだか……忙しないね」
「本当に」



 ◇◇◇



 一通り参集者たちとの挨拶を終えたあと、オリアーナとセナはバルコニーに出た。二人が座ってもまだ余裕がある大きなソファに腰を下ろして、飲み物を飲みながら休憩する。

 白亜の手すりの向こうで、夜の虫が鳴いている。冷たい風が優しく頬を撫でていき、真っ暗な夜空には、大きな月が浮かんでいる。

「……セナ」
「何?」
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