【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜


 この国の中できっと、人々に慈悲を施す聖女の器に、彼女以上にふさわしい人はいないだろう。気高くて清らかで、思い遣りがあるオリアーナ。性格も血筋も文句なし。神が聖女に選ぶのも納得だ。

 セナは、オリアーナが非魔力者ということに内心で安堵していた。力がなければ、始祖五家としての使命を果たさずに生きることができる。彼女には普通の家庭を築き、ありきたりな幸せを得てほしかった。

「何かいい方法があるかもしれないから、悪いように考えるな。上手くいく方法を一緒に模索しよう。俺が力になるから。大丈夫」

 まっすぐと彼女を見据えると、動揺していた彼女は少し落ち着きを取り戻した。

「そうだね。君のおかげで少し落ち着いたよ。……セナは、優しいね」
「誰にでも優しくしてる訳じゃないよ。リアにだけだから」

 優しい人というのは、オリアーナやレイモンドのことを言うのだ。セナがオリアーナに優しくしているのは、彼女が好きだからだ。あわよくば絆されて振り向いてほしい。そんな邪な下心が腹の底にある。

「え……?」
「俺はお前のことが好きだから」

 彼の言葉をそのまま素直に受け取り、にこりと微笑みを返した。

「うん。私もセナが好きだよ」

 能天気に笑うオリアーナを見て、セナは不服そうに眉を寄せた。

「リアの好きと俺の好きは……違うよ」
「好きな気持ちに違いなんてないでしょ?」

 きょとんととぼける彼女。
 オリアーナの好きと、自分の好きは決定的に違う。彼女から幼馴染としてしか見られていないことは分かっている。

 それでも、彼女が――好きだ。
 実ることはないと分かっていても、恋焦がれてしまう。どうしようもないほどに。

「そうだね」

 自分の気持ちに嘘をついて、セナは今日も幼馴染としての偽りの笑顔を返す。
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