【完結】魔法学院の華麗なるミスプリンス 〜婚約解消された次は、身代わりですか? はい、謹んでお受けいたします〜

「そうですね。……きっと」

 そっと彼から身体を離した。レイモンドの金色の瞳も涙で濡れている。彼が泣いているのを見るのは、何年ぶりだろうか。いつも冷静沈着で、クールで、滅多に泣かない彼が。

 レイモンド・アーネル。始祖五家アーネル公爵家の子息であり、アーネル家始まって以来の逸材といわれる彼。

 生きてさえいれば、多くの民を救う素晴らしい魔法士になっていたはずだった。どうしてよりによって彼が、こんな目に遭わなければならないのだろう。

「私が代われたら……どんなにいいかな。私なんかより、レイモンドの方がずっと価値のある人生を送れたはずなのに……いや、違うよね。そういうことじゃないよね」

 彼はオリアーナの涙を親指の腹で拭い、真剣な面持ちで言った。

「姉さんの自己肯定感が低いのは、僕たち家族のせいです。姉さんは誰よりも魅力的で、自慢の姉さんです。もっと自信を持って。自分を大切にしてあげてください」
「…………」

 ずっとレイモンドと比較され、出来損ないと言われて、愛されずに育った。無意識に誰に対してもいい顔をしてしまうし、頼まれたことは拒めない。それらは自己肯定感の低さから来るものだ。

 だから、レックスに理不尽に婚約破棄されても、弟の身代わりを押し付けられても、怒ることができなかった。どんなに辛いことも、甘んじて受け入れてきた。
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