婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった
 だがレティシアを追い越した男子生徒たちが騒ぎながら廊下を駆けていったせいで、エリオルがこちらを振り向いた。
 青く透明なサファイアの中に、レティシアの姿が映し出される。
 迷ったのは一瞬。動揺を悟られないよう、淑女の仮面を被って無理やり口角を上げる。いつも通りを意識して口を開いた。

「ご、ごきげんよう。エリオル様」
「……ああ」
「…………」
「…………」
「…………ええと、では失礼しますね」

 長い沈黙に耐えかねて廊下の端まで走り、柱の陰に隠れた。
 ここには淑女らしくない行動を諫めるメイドもいない。学び舎の下で生徒は皆、平等の立場だ。何よりエリオルは身分を振りかざすような真似はしない。
 そう頭ではわかっているが、会うたびに婚約者の思わぬ本音を聞かされる身としては、正直たまったものではない。

《レティシアの笑顔は癒やされる。もっと見ていたい。大好きだ》
《……今日もレティシアが最高に可愛い。彼女と出会わせてくれた神に感謝を捧げよう》
《世界で一番、レティシアを愛しているのは私だ》

 一週間で浴びた言葉を思い返すだけで、悶絶しそうになる。
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