婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった
 そこへ追い打ちをかけるように、エリオルの声が脳内に響く。

《ふ、不意打ちは心臓によくないな……息が止まるかと思った。レティシアは日に日に美しさに磨きがかかっている。見るだけで心が浄化されるようだ。ああ、これで数日は頑張れる》

 楽しげな余韻を残して、声の主は去っていく。
 一方、恋愛経験の乏しいレティシアは教科書とノートで顔を覆っていた。
 手鏡を見なくてもわかる。きっと今、自分の頬は桃のように色づいているに違いない。

   ◆◇◆

 レティシアとエリオルの婚約は、政略結婚によるものだ。
 家同士の契約のため、本人の意思は関係ない。相手が好きであろうとなかろうと、結婚から逃れることはできない。
 婚約当初は公爵家のお招きに心躍らせたものだが、そこにいたのは寡黙の貴公子だった。
 弾まない会話。動かない表情。これでは親睦が深められるはずもない。
 贈り物はこまめに届いていたが、婚約者の義務を果たしているだけだと思っていた。けれど、それは違っていたのだと最近になって知った。
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