婚約者の心の声を知りたいと流れ星に願ったら叶ってしまった
 エリオルは従者に任せるのではなく、花言葉やレティシアが好む色を調べ、自ら贈り物を手配してくれていたのだ。婚約者が、自分のために一時間以上かけて真剣に悩んでくれたと知って、喜ばない人はいない。
 形だけの婚約者ならば、ここまでの気配りをする必要はない。
 大事にされていると実感するには十分すぎるほどだった。しかし、これまで気づかずにいた彼の優しさを知れば知るほど、罪悪感も膨れ上がっていく。
 誰だって、まさか婚約者に本音が筒抜けとは思うまい。
 エリオルに非はない。だからこそ、心の声には絶対に返事をしてはならないのだ。
 もし逆の立場だったら。考えるだけでも恐ろしい。もはや悪夢に近い。

(不可抗力とはいえ、わたくしがしているのは、胸の内に隠している本音を暴いているのも同じこと。ならば、聞かなかったふりをするのが優しさ……でしょうね。聞こえないふり、聞こえないふりです……)

 必死に自分に言い聞かせ、夜空に浮かぶ満月を見上げる。
 今夜は星々の光が霞むぐらいに、ひときわ白く輝きを放っていた。
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