聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
* * *
「初めまして。ユレンディール・ウィン・リンバートソンと申します。聖母候補様におかれましてはご機嫌麗しゅう」
彼は部屋に入った瞬間に嫌な気持ちになった。が笑顔は崩さない。
部屋はカーテンが閉め切られて薄暗く、空気が淀んでいる。
その部屋のソファに若草色のドレスのシェリナが寝そべる様子は、まるでイモムシのようだった。
「窓を開けましょう。外の空気が気持ちいいですよ」
ユレンディールが言うと、お付きの侍女が慌てて窓を開けようとする。
「やめて、開けないで」
シェリナは顔を抑えて言った。侍女はおろおろと手を止めた。
ユレンディールは自身の手でカーテンを開け、窓を開けた。
「こんなにいい天気ですよ」
暗い部屋に慣れた目に、日差しが眩しい。心地よい外気に、彼は大きく息をついた。
「外を見るのがつらいの」
「どうしておつらいのですか?」
彼は優しくたずねた。
「だって、あの人たちが見えるんですもの」
シェリナは泣いた。
「あなたが部屋にこもりがちだと聞いて、様子を伺いに参りました。困ったことがあればおっしゃってくださいませ」
シェリナは涙で濡れた顔をユレンディールに向ける。
「三千花と晴湖にブスだの暗いだの言われて、外へ出るなと言われました。もうつらくてつらくて」
ユレンディールは、う、う、と嗚咽を漏らす彼女の隣に座り、その肩を抱いた。濃い香水の臭いが強く漂ってきて、思わず顔をしかめる。それに気づかないシェリナは、彼にもたれてくる。
三千花ならこんなことしない、とユレンディールは思った。
「あなたたちは同じ世界の人なのでは」
「そうです。なのに、あの人たちは意地悪で、私だけ若いせいか嫉妬してバカにされて……」
「大変な思いをされているのですね」
ユレンディールはとりあえず話を合わせた。
シェリナはわーっと泣き始める。
「初めて優しくしてもらえた」
初めてだ、を繰り返してシェリナは泣いた。
ユレンディールは首をかしげる。