聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 晴湖がシェリナを気にかけている、とシェリナ付の侍女からも晴湖付の侍女からも報告を受けていた。だからシェリナの発言には納得いかない。

 シェリナはほかの二人よりもドレスや食事などへの要求が高く、王子との面会も要望していた。晴湖も三千花も「自分のために」何かを願い出ることはなかった。

「私が聖母ですよね?」
「それは大神官長が判断することです」

「違ったら元の世界に帰されるの?」
「そうですね」

「帰りたくない。あんなところに私を帰さないで」
 ユレンディールにすがりついて、シェリナは泣いた。

「ですがこちらに残るということは、知り合いも身内もいない場所で一人で働いて生きていくということです。よろしいのですか?」
「あちらにはつらいことしかないのです。私は虐げられていました。こちらでもつらい思いをしなくてはならないのでしょうか」

 ユレンディールは嫌な気配を感じて、笑顔を浮かべた。
 つまり、こっちで無条件に優しくして養え、とでも言いたいのか?

「わかりました。あなたに合う仕事を部下に探させましょう」
 その言葉に、シェリナは何も答えない。
 ただ、シクシクと泣いて見せる。

「申し訳ございません。いましばらくご辛抱ください」
 ユレンディールはそう言って部屋を辞した。

 もしあいつが聖母でも結婚はしたくないな、と率直に思う。
 会議では彼女は聖母には不適格だと主張しよう、と固く決意する。そもそも聖母に適格かどうかを見に来たのだから。

 ユレンディールは自分の服の臭いをかいだ。
 移り香だけでも頭が痛くなりそうだった。

< 181 / 317 >

この作品をシェア

pagetop