聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
三千花は夢を見た。
子供の頃の夢だ。
男の子がしゃがみこんで泣いている。
彼は青のような緑のような、綺麗な色の目をしていた。変わった服を着ていた。
「ころされかけた。ひっしでにげてきた」
彼はそう言った。
よくわからなかったが、かわいそうに思って頭を撫でた。
彼は声を殺して泣いた。
男の子はこんなふうに泣くのかな、と三千花は思った。
「おかしあげるから、元気出して」
ポケットに入ってた個包装のクッキーを渡した。チョコチップが入った三千花のとっておきだ。
男の子が怪訝な顔で見てくるのでパッケージを破って渡し直した。
「おいしいから。とくべつにあげる」
彼は暗い顔でそのクッキーを食べた。が、すぐに驚いて三千花を見る。
「おいしい」
「そうでしょう?」
三千花は誇らしげに彼を見た。
二人はすぐに打ち解けて遊んだ。
「向こうじゃこんなふうに遊んでくれる人いないんだよ」
「ともだちいないの?」
「いない。身分がちがうからともだちになれない」
「たいへんなんだね」
身分をよくわかっていない三千花はそう答えた。
「でもここではかんけいない! 三千花がともだちになってくれた! はじめてのともだちだ!」
初めての友達、と言われて三千花はなんだかうれしくなった。
彼は元気になって帰っていった。
それから時々、彼は三千花のところに遊びに来た。
友達だから、と彼は魔法を見せてくれた。彼女を抱きかかえて空を飛んだこともあった。
三千花は素直にそれを喜び、魔法を羨んだ。
「いしきをしゅうちゅうして使うんだ」
言われて真似して見るが、三千花にはちっともできなかった。
「きみができないことはおれがかわりにやってあげるから」
彼はそう言って三千花を慰めた。
「おれは王子なんだ。大きくなったら三千花をむかえに来るから、けっこんしてね」
「えー、どうしよっかなー」
「来てよ、しあわせにするから」
「ならいいよ」
「やったー!」
子供同士のたわいない約束だった。
彼は毎日のように来るようになったが、どんどん顔色が悪くなっていった。
「もうここに来ちゃいけないって言われた」
「なんで?」
「まりょくとたいりょくをつかうから」
毎日の異世界転移は彼の体に大きな負担を与えていた。
「これ、あげる。つけてて。けっこんのやくそく」
彼はペンダントを三千花にプレゼントした。青のような緑のような、彼の目と同じ色をした石がついたペンダント。
それを三千花の首にかけて、彼は言った。
「おとなになったらむかえに来るから」
「それまで会えないの?」
「もう会っちゃダメって言われた。だから、おとなになるまでまって」
「まてるかなあ」
「まてるよ。このペンダントはまほうの力があるんだ。これをしていると三千花はおれのことをわすれる。きおくをふういんするんだ。だけど、ほかの男がよってこない。だから大丈夫」
「わすれるの?」
「一時的にわすれるんだ。きみのあんぜんのために」
「わすれてないよ?」
「そんなすぐにはならないよ。大丈夫、わすれたことには気づかないから」
「わすれたくないからはずす」
「だめだよ。これがないときみを見つけられなくなるかもしれない」
「そうなの?」
「だいじょうぶ。おれと会えばすぐに思い出すから」
「うーん、それなら」
三千花はペンダントを受け入れた。
王子はにっこり笑い、光に包まれて消えた。
消えた直後から、小さい三千花は王子の記憶をなくしていた。