聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜





 朝。
 目が覚めた三千花は、ガバっと起きて両手で顔を覆った。

「あのときの――」
 三千花は理解した。ペンダントが彼女の記憶を封印していたのだ。
 壊れたことで、三千花の記憶が蘇ったのだ。

 それでなんとなく、怖いのに彼にときめいた心理に納得がいった気がした。
 無意識に、彼は安全な人だと――あのときの少年だと認識していたのだ。

「わかるわけないじゃん、記憶を消されて。なんで言ってくれなかったの。なんで封印を解いてくれなかったの」
 また新たに涙があふれてくる。ここ数日でとんでもない量の水分が目から流れている気がした。泣きたくなくても勝手にあふれて来る。

「勝手すぎる」
 説明もなくあちらへ連れて行って。聖母だからと言われても何もできず。
 結婚したいと言いながら気持ちを明確には言ってくれなくて。

 やっと言ってくれたと思ったら、離れ離れで。

 幸せになれ、と彼は言う。

 勝手だ。
 勝手に連れて行って。

 三千花の心を奪っておいて。

 静かに流れる涙を拭いて、指輪を撫でる。
 彼とつながるものは、もうこれしかない。

 指輪で位置がわかると言っていた。それはアルウィードだけなのか、魔法を使えるものなら全員なのか、わからない。

 彼の無事もわからない。
 魔法を使ってみようか、と一瞬悩む。

 使えればまだアルウィードは無事だ、ということにはならないだろうか。
 だが使えなかった場合、どう判断していいのか。

 単に違う世界にいるから使えないのかもしれないし、アルウィードが命を落としたから使えないのかもしれないし、それはわからない。

 魔法を使えなかったときに、自分の精神を保っていられるのか。
 自分が魔法を使ったせいで彼がまた倒れてしまったら。

 それを思うと使う勇気は出なかった。

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