聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜





「準備が整いました。魔法陣の中心へどうぞ」
 おごそかに神官の一人が言う。

 晴湖はゆっくり歩き、その中心へ向かう。
 三千花は何食わぬ顔で一緒に歩き出した。

「待て、三千花」
 アルウィードが驚いてその手をつかむ。

「なんで君まで行くんだ」
「だって」
 それ以上の言葉をつなげることができす、三千花は顔を真っ赤にしてうつむく。

 アルウィードの前でどんな顔をしていいのかわからない。
 逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「ダメよ、がんばって戻ってきたんでしょう?」
 晴湖に言われて、三千花はうなずく。

 あのときはアルウィードを助けたくて、必死になっていた。
 離れたいわけではない。

 だけど。

 三千花はそーっとアルウィードを見上げた。
 彼は険しい顔で三千花を見ていた。

「帰りたいのか」
 三千花はまたうつむいた。ややあって、うなずく。

「俺を見て言って」
 彼女は黙って首を振った。

「三千花」
 アルウィードは三千花の顎をくいっと上げる。

 真っ赤になっている彼女を見て、アルウィードは少し驚く。が、すぐに表情を和らげた。

「わかった」
 優しく微笑み、アルウィードは言う。

「いいの?」
 晴湖は三千花に問う。

「いいんだ」
 アルウィードが答える。

「すぐにまた迎えに行く。準備して待っていてくれ」
 彼は愛しそうに彼女を見つめた。
 三千花は悲しくないのに涙があふれてきた。

「――うん」
 三千花がうなずくと、アルウィードは彼女を抱きしめた。

「必ずだ」
「うん」
 三千花が答える。

「待ってるから。すぐに来て」

 アルウィードはこらえきれないように三千花に口づける。
 三千花は目を閉じて彼を受け止めた。

 ステンドグラスから差し込んだ光が、優しく二人を包みこんでいた。






 儀式は滞りなく終了した。
 二人の女性は、異世界からあちらの世界へと無事に送還された。
 一人はほどなくして再び異世界を訪れた。
 愛する人と結ばれるために。






* 終章 終 *







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