聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜
 リグロットは平服した彼らを立たせ、仕事を再開させた。

「三千花様、不自由はございませんか?」
「不自由だらけよ。暇だし」
「本はお気に召しませんでしたか?」
 リグロットが尋ねる。

 彼は最初に挨拶にきたあと、使いの者に新聞や本を持たせて彼女に渡していた。が、文字がまったく違っていて読めなかった。翻訳魔法は口頭に限るようだった。
 刺繍セットも届いていたが、やったことないので手つかずだ。
「こっちの文字は読めないみたい。刺繍もできないし」

「申し訳ございません。それは予想外でございました。ほかの物を持ってこさせましょう。何かご希望はございますか?」
「帰らせてくれたら一発解決なんだけど」
「できない相談でございます」
 丁寧に断られてしまった。

 そうこうするうちにも使用人たちは準備を終えた。
 彼らが出ていく時、三千花はまた
「ありがとうございます」
 と声をかけた。

 使用人たちは驚いたように無言で頭を下げて出ていった。
 そんなにびびらなくても。
 三千花はなんだか残念な気持ちになる。

「なるほどね、そういうこと」
 リグロットは面白そうにつぶやいた。

 ん? とリグロットを振り返ると、
「普通は使用人にはお礼を言わないのですよ。やって当然の仕事でございますから」
 と彼は説明してくれた。

「そういう考え方って良くないと思う」
「聖母様は面白くていらっしゃる」
「何か問題でも?」
 ふてくされるとリグロットはにっこり笑った。

「ございません。むしろ聖母様にふさわしい言動でいらっしゃるかと」
 意味がわからない、と三千花はうんざりした。
 いや言葉の意味はわかる。わかるが……。

 エミュリーはそんな彼女を憎々しげに見ていた。
「私は様子伺いに来ただけだからすぐに行きます。失礼のないように」
 リグロットはエミュリーに念押しする。

「かしこまりました」
 エミュリーはお辞儀して答えた。
 彼女の目は怒りに燃えていた。



< 43 / 317 >

この作品をシェア

pagetop