聖母召喚 〜王子に俺と結婚して聖母になれと烈愛されてますが、隙を見て逃げます〜





 困った。
 三千花は現在、非常にこまっていた。

 広い城の中で迷子になっていた。
 食後、暇を持て余していた三千花に、エミュリーが城内の散策を提案した。三千花はそれに飛びついた。

 監視の目はエミュリーが誤魔化してくれた。兵士は「聖母」の顔を知らないので、簡単だった。
 地味なドレスに着替え、エミュリーが使っている続き部屋に入る。

 エミュリーの部屋もまた廊下への扉がある。
 その扉から出ると、そのまま通された。兵士はそこにも控えていたが、聖母だとは気づかなかった。

 警備がザルじゃん、と喜んで歩きまわった。いつか逃げるときの参考にもなるし、と。

 その結果が迷子だった。
 いつの間にエミュリーとはぐれてしまったのかわからない。キョロキョロしていたらいなくなっていた。

 誰かに見つかったら不審者として捕まるんじゃ……。捕まるならまだしも、殺されたら……。
 ゾッとして、早くエミュリーを見つけなくては、と思う。
 大声で呼ぶのはほかの人にも気づかれるため、最後の手段にしておいた。

 それにしてもドレスって動きづらい。
 そう思いながら歩き回っていると、女性の話し声が聞こえた。もしやエミュリー、と思って近づくが、どうも違う。

「……だったらしいわよ。信じられないわよね」
「へえ、聖母ってそんな人なんだ」
「下働きにお礼をいうとかありえない」
「異世界から来たから、こっちのこと知らないのよ」
「はずかしいと思わないのかしら」
「しょせん犯罪者の娘よ」

 そんな会話があったから、出ていくに行けなかった。
 しかし犯罪者の娘とはどういうことだろう。両親は普通の会社員だし、そもそもこちらの世界の人間ではない。

「あなたたち、そんな話をするものではないよ」
 突然、三千花の背後ろから男性の声がした。
 心臓が口から飛び出るかと思った。

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