龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
……と思ったのだけど。
「きゃあッ!」
リリアナさんでさえ、ワイバーンの高度が上がった途端に落竜した。
下は柔らかい砂の上だし、教官達の魔術で見えないクッションが敷かれている。ダメージはさほどないと思うのだけど……やっぱりリリアナさんもショックを受けたのか、顔色が良くない。
取り巻きのマリナ伯爵令嬢とカリン子爵令嬢ととともに、彼女のもとへ走り寄る。
「リリアナ様!」
「大丈夫ですか?お怪我は!?」
必要なことは2人が先に言ったから、あたしは別件で心配しておいた。
「リリアナさん、少し休んだ方がいいよ。落竜のダメージは身体だけじゃないから」
「いいえ!」
言下に精神的なダメージを伝えたのに、リリアナさんはあたしたちの心配をよそに、キッと前を見据えた。また立ち上がって戻ってきたワイバーンの手綱を掴む。
「こんな程度で弱音を吐いてはいられませんわ!ただひたすら努力あるのみです」
そしてふたたびワイバーンの背中に乗り込むと、飛翔のための助走を始めた。大抵のドラゴンは飛翔のために助走が必要だけど、高位龍だと必要ない種もある。魔力で浮力を補うからだ。
ワイバーンは魔力が低いから、物理的に浮くため助走が必要なタイプだ。
「行きますわよ!」
リリアナさんの気合いが入った叫びとともに、ワイバーンが翼を羽ばたかせてふわりと浮いた。