龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
リリアナさんを乗せたワイバーンは10mほどの高さまで上昇し、皆からおおっ!と歓声が上がる。そのままの高さでUターンを試した途端、リリアナさんの体勢が崩れる。
「危ない!」
リリアナさんは首にしがみついていたものの、ワイバーンは命令されたままUターンを繰り返して彼女を振り回す。止める命令が無いから仕方ないけど…。
(このままだとまずい!)
腰に提げてある革のカバンから竜笛を取り出し、ワイバーンに合った波長の音を出した。
《モウイイカラ、カエッテオイデ。ミンナマッテル》
「ピイイィー(わかった)」
ワイバーンは了承の嘶きを発すると、そのままゆっくりゆっくりと下降する。着陸地点にふたたび駆け寄ると、落ちそうなリリアナさんの身体を支えた。
「リリアナさん、大丈夫?」
心配でリリアナさんの顔を覗き込むと、彼女は唇を噛みながら身体を震わせていた。よほど悔しかったんだろう。でも、あたしは素晴らしい才能だと思う。
「リリアナさん、すごいよ。2回目の騎乗であの高さまで飛べたなんて」
あたしがそう伝えても、彼女は首を横に振り下を向いてしまう。目に涙まで浮かべていた。
「……こんな程度では、まだ駄目なのです!こんな情けない失態を繰り返していては……お父様の名誉が傷つけられてしまう。クロップスの跡取りなのに……」
初めて、リリアナさんの口から弱音が漏れた。