龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
あたしがリリアナさんに食べさせたのは、ノプットの子どもなら甘酸っぱい懐かしい味。
レモンのフリッター(揚げ菓子)だった。
ノプットは北国だけど、南部ではレモンや果物の栽培が盛ん。感謝祭や収穫祭ではよく果物を使ったお菓子が振る舞われる。
だからかリリアナさんも驚いた顔をしたものの、ゆっくりと緊張が解け次第に柔和な表情になった。
「レモンのフリッター…よく、感謝祭にお母様がお作りになっていましたわね」
「でしょう?あたしもおばあさまがたまに作ってくれたの。レモンの甘酸っぱさと油のコクがくせになるよね」
フッ、とリリアナさんの顔が優しくなる。
子ども時代を思い出したのかな?
「ですわね。わたくしも大好きですわ……お父様とお母様と…めったに揃いませんでしたけど。年に一度の感謝祭の時だけはお父様が必ず帰ってきてくださいましたの。“リリアナ、誕生日おめでとう”…と」
懐かしい思い出を語るリリアナさんの表情はすっかり落ち着いていて、もう大丈夫そうだけど。あたしは念を入れる事にした。
「素敵だね。感謝祭と誕生日が一緒だなんて」
「別にめでたくもなんともありませんわ。一度にお祝いされるのですもの。プレゼントも2回分でなく、一度に渡されますのよ」
「あははっ、そりゃあ可哀想だわ」
あたしが笑っても、リリアナさんは咎めることなく話を続けた。
「でも……お父様だけは皆に内緒で、とお誕生日を別にお祝いしてくださいましたの……簡単なケーキをお父様が手作りして…いつも不格好でしたが、わたくしにはどんなケーキにも劣らず美味しかった…いつもケーキには、わたくしの好物のレモンのフリッターが入ってましたの」