龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「クロップス侯爵令嬢リリアナ様、どうぞお越しくださいませ」
女王陛下への挨拶は先着順だけど、王室関係者や特使等は優先的に拝謁できる“アントレー”という特権がある。
侯爵かつ竜騎士団団長のクロップス卿はその特権があるから、娘のリリアナさんにも適用される。
呼ばれて顔を上げたリリアナさんは、しっかりとした眼差しで。あたしたちが暖めていた指先も、今はしっかり温かい。
「ありがとうございます、皆さん。おかげで落ち着きましたわ……皆さんからいただいた勇気を胸に、行ってまいります」
「はい!無事の成功をお祈り申し上げますわ」
名前を呼ばれたリリアナさんは、あらかじめ用意されたカードを手に、王宮の小姓とともに大広間へ向かった。
「リリアナさんなら、大丈夫だよ。強いひとだから」
「そうですわね……リリアナ様は血が滲むような努力されてましたもの」
あたしが思わずつぶやくと、マリナさんがそう応じてくれた。
そうこうしていると、椅子に座ったカリンさんがあたしに問いかけてくる。
「……アリシアさんは、デビュタントダンスは大丈夫ですの?まだヴァイス殿下から便りがありませんが……」
心配そうな顔で訊かれてしまえば、とても楽観的な答えは返せない。
「……うん、正直な気持ち……不安はあるかな。戦いはほとんど終わったみたいだけど、たぶん総大将のクロップス卿に代わってヴァイスさんは色々やっているんだと思う…だから、仕方ないんだけど」