龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
「そう、それは頼もしいこと……そなたはアリスティアおば様にそっくりであるな」
「アリス…おばあさまに」
閉じた扇を口元に持って来られた女王陛下は、声をひそめてこうおっしゃられた。
「…アリスティアおば様はわずか3歳のわたくしに“できちゃったからよろしく〜”と王太子の地位を押し付けて消息不明になったのだ」
「え…ええっ!?」
「だから、悔しいので王族籍は抜けさせておらぬわ。すべて意のままになると思わぬようにな」
ニッ、と唇の端を上げ笑った女王陛下は、ずいぶん楽しそうだ。だから、あたしは王女の養女という扱いか…。
「陛下、次が待っておりますので…」
脇にいた人がそう耳打ちすると、女王陛下はため息をついて「仕方ない」と呟かれた。
「もっと話したかったが…アリシア、もっと前に来なさい」
「はい」
閉じた扇で招き寄せられた位置まで前進すると、女王陛下が屈まれる。そして、あたしの両方の頬にキスをされた。
「おおっ!」
「陛下が……お許しを」
後ろの王室関係者からどよめきが上がった。その意味がよくわからないまま、その方々にも正式な淑女のお辞儀をしていく。
女王陛下に背中を向けてはいけないから、立ってからは後ろ向きに歩く。
ドアの前でもう一度深々と一礼してから、ようやく謁見の間から退出した。
(……やった!失敗しなかったよ、おばあさま、みんな!)
思わずガッツポーズをしてしまい、白い視線に気づいてコホンと咳ばらい。その後はリリアナさんが先に待つ広間へ向かった。