龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
デビュタントの少女達がデビュタントダンスが始まるまで待機する大広間。リリアナさんは隅の方でソファに座って侍女とともに待っていた。
瞼を閉じて両手は膝の上。顔色は先ほどより良さそうだ。眠っているように見えるから侍女に目配せで確認すると、「大丈夫ですわ」との返答。話しかけて大丈夫かな、と判断してから声をかけた。
「リリアナさん、大丈夫?」
するとリリアナさんは目を開き、「大丈夫ですわ」とわずかにかすれた声で答えた。
「ご心配はいりません…しばらくひとりにしてください」
「……わかった。でも、出来ることがあればなんでも言ってね」
「…………」
これにも反応がなく、リリアナさんはふたたび目をつぶって俯いた。今は、何を言っても余計なのかもしれない。
メグが持ってきたジュースを飲みながら待っている最中、リリアナさんにひとりの少年が声を掛けた。
「リリアナ」
「……ヒース……」
リリアナさんがヒースと呼んだ少年は、なかなか整った凛々しい顔立ちだった。黒の燕尾服を身につけ、白いタイと手袋。黒い髪もしっかりスタイリングしてる。そして、胸には小さなブーケ。…となれば、このオーパン・バルの出場者。おそらく、リリアナさんのパートナーだろう。
ヒースさんはリリアナさんの隣に腰掛けると、黙って彼女の肩に手を回しそのまま抱き寄せる。リリアナさんは「ヒース…!」と震えながら彼に寄りかかった。
ヒースさんが彼女の頭を撫でると、少しずつ落ち着いていく。リリアナさんを見る彼の目はとても優しい。
(やっぱり…敵わないなぁ…)
邪魔にならないように、そっとその場から離れた。