龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
(正直、うらやましいなあ…)
デビュタントの少女のもとへ、パートナーの少年が訪れてくる。時間が経つごとにその人数は増えてきた。
社交界デビューするとはいえ、上流階級の子女。婚約者等の決まった相手がいれぱ、当然パートナーとなる。
リリアナさんだけじゃない。
女王陛下への挨拶が済んだマリナさんもカリンさんも、パートナーの少年達と談笑していた。
(デビュタントダンスまであと30分か…)
「メグ、ちょっと外の空気を吸ってくるね」
「はい。お気をつけて」
メグもなんとなく察してくれたんだろう。バルコニーまで着いてくることはなかった。
バルコニーに出ると、見事な夜空と夜景。ドラグーン城はその名前通りドラゴンのために小高い丘の上に建てられているから、眼下の夜景は街の灯りがキラキラ光っていて美しい。雲ひとつない晴れた夜空にも、月と満天の星が輝いてた。
でも、今のあたしの気分は浮き立ってくれない。
(デビューよりも…ヴァイスさんやシルヴィアや皆さん、ドラゴンが無事でありますように)
そう祈った瞬間にブワッ、と一瞬強い風が吹いて、微かに羽音が聴こえた気がした。
(まさか、シルヴィア?)
少しだけ期待して周りを見渡しても、やっぱりドラゴンなんて見えなかった。
「バカみたい…あたし……」
バルコニーの手すりに顔を伏せていると、後ろから足音が聴こえて振り向けば、燕尾服姿の金髪碧眼の少年が近づいてくる。
白いタイと手袋に胸もとに小さなブーケ。オーパン・バルの出場者だろう彼に、なぜか話しかけられた。
「おい、田舎娘!」
……この一言で、誰かすぐにわかったけどね。