龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?
でも、だからなんだと言うんだろう。
たとえヴァイスさんがあたしを好きでなくとも、あたしは彼が好きだ。
それに、ヴァイスさんは確かにあたしに優しかった。
たとえ偽の恋人でも、彼といる時間は幸せだったんだ。
それは、あたしの中で何にも代え難い真実。
ヴァイスさんと今すぐ離れることになっても、ずっと色褪せない大切な思い出。
だからあたしはありったけの侮蔑を込めて、ハワードを睨みつけた。
「だから、なに?ヴァイスさんがたとえあたしを好きでなくとも、あたしはヴァイスさんが好きだから。そのことを恥じる気持ちはない!」
そうきっぱり言い切ったあたしは、「う…」と怯んだハワードの手を振りほどく。
「だいたい、これはあたしとヴァイスさんの問題。あんたには一切関係ない」
あたしがそう言うと、ハッと我に返ったらしいハワードがまた詰めよってくるから、手すりの方へ後ずさった。
「関係なら、あるだろ!」
「なにが?あたしはあんたと養成学校以外で関わるつもりはない!」
「ぐっ……」
言葉に詰まったハワードは何を考えたか、自分の胸もとのブーケをむしり取る。そしてそれを、なぜかこちらへずいっと差し出した。
「う、受け取れよ」
「……は?」
意味がわからない。
男性のデビュタントの胸もとのブーケは、パートナーへ贈るものだ。デビュタントダンスを踊る時にそれを互いに手に持ちともに贈る。
だから、なぜハワードがあたしに贈るのか。まったく意味不明だった。