龍騎士殿下の恋人役〜その甘さ、本当に必要ですか?

「パートナーがいないおまえを、オレが誘ってやるんだ!ありがたく受け取れよ」

ハワードのその言葉でようやく言いたいことはわかった。パートナーが逃げたか欠席か何かで、踊る相手がいなくなったんだろう。伯爵家長男として、恥ずかしい思いはしたくない。だから、ちょうどパートナーがいないあたしを誘いに来たんだろう。

「あたしはヴァイスさんと約束してる。でも、彼が来なかったとしても、あんたと踊るくらいならひとりで踊るわ」

とことん失礼極まりないから、こちらも負けずに言い返してやった。すると、カチンときたのか見る間にハワードの顔が赤くなる。

「し、失礼なやつだな!ちょっとでもマシになったから誘ってやろうとしたのに!」
「失礼はあんたよ!女性を外側だけで見ないで!!はっきり言うけど、あたしはあんたが嫌いだから」
「こ、このっ…!」

ハワードに勢いよくドン、と後ろへ押された。

(あ、やばい…)

手すりから頭の重みで真っ逆さまに落ちる。浮遊感を感じてすぐ、手すりに手を伸ばしたけど…届かなかった。

(仕方ない…空中で体勢を変えて受け身を…)

あたしがそう考えた瞬間、バサッと羽音がすぐ間近で響き、ぐいっと抱き寄せられた先は……たくましい胸の中。

(この薫り……感触は……)

「アリシア、大丈夫ですか?」

そして、涼やかでしみとおる声。

「……っ、ヴァイスさん!!」

思わず、彼に抱きついてしまっていた。


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