カマイユ~再会で彩る、初恋


『茜、俺と結婚してくれないか?』

三十五年生きて来て、初めて愛した女性。
後にも先にも二度と口にできそうにない言葉。

元々、口数が多い方じゃない。
人見知りはするし、心の内を話せる友人も少ない。

身内ですら、本心を曝け出すようなことをしたことのない俺が、人生を共に歩みたいと思えた女性。

もっとじっくりと時間をかけて、一生の思い出になるような場所で。
彼女の記憶に鮮明に刻むことができるようなシチュエーションでプロポーズしようと思っていた。

けれど、今自分の瞳に彼女を映したら、もう一秒たりとも先延ばしできなかった。

俺が不在の間に、見知らぬ男に掻っ攫われないように。
俺が不在の間に、彼女が一瞬でも寂しい想いをしないように。
彼女と逢えない日々に、俺の心が常時幸せを噛みしめられるように。

今を逃したら、絶対後悔すると思って。

『はい』
たった二文字の言葉なのに、人生で一番嬉しい言葉に感じた。

数か月前に祥平の店に初めて連れて行った時に、疲れ気味の彼女のために祥平がノンアルのカクテルを作ってくれた。
それが『シンデレラ』。
オレンジとレモンとパイナップルの果汁を合わせた酸味の効いたカクテルを、彼女が凄く嬉しそうに口にしていたから。

そこからヒントを得て、インスピレーションを働かせてオーダーしたもの。
『シンデレラ』=『ガラスの靴』

実際彼女が愛用しているヒールに合わせて作ったものだから、ピッタリなはず。
片方だけだから履いてどこかに行ってしまうこともない。

「これ、本物ですか?」
「ん」
「……凄っ」

大きな目を見開いて、まじまじと見つめている。

< 170 / 177 >

この作品をシェア

pagetop