この恋の化学反応式
自己採点が終わり、私は早足で塾へと向かった。

模試の自己採点した結果ははっきり言って今までのどの模試の成績よりも良かった。

私は早く先生にこの結果を伝えたい。その一心で。

(先生、結果見たらどんな反応するかな)

いつの間にか早足が小走りに変わり、塾のドアに手をかける頃には、私はすっかり息が上がってしまっていた。

勢いよくドアを開けて先生を探す。

けれど、何処にもあの目立つ茶髪が見当たらなかった。

(先生、体調悪いのかな)

でも何かおかしい。嫌な予感がする。
不安な気持ちで、こちらに歩いてきた塾長の顔を見る。

「あの、橘先生、今日は休みですか?」

そんな私の質問に、塾長は申し訳なさそうに眉を下げた。

「橘先生、辞めてしまったんだよ。急な話で、有川さんには本当に申し訳ないんだけど」

その言葉で、私の視界は真っ黒になった。

その後のことはあまり覚えていない。

塾に忘れていた化学の参考書を机の中から探し出して、カバンに放り込んだのは何となく記憶にある。

けれど、新しく私の担当になる先生を紹介してもらったはずなのに、塾を1歩出ると声は愚か顔もぼんやりとしか思い出せなかった。

雲でおおわれて星が1つも見えない空を見上げて涙が込み上げてくる。

「先生の嘘つき、、、」

私のことが心配だから、まだ続けるって言ってくれたのに。
一緒に頑張ろうって、励ましてくれたのに。

先生の連絡先も、ましてや彼の家がどこかも知らない。私は先生のことを知っているようでなにも知らなかったことに今更ながら気づいた。
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