旦那様は仏様 ~もっとイチャイチャしたいんです~
 そのまま話をしていれば、いつの間にやらゴンドラは観覧車の半分の高さまで到達し、もう千佳たちの姿は見えなくなっていた。そのことに安堵しつつ、美咲はまた聡一との会話を楽しんだ。

 けれど、徐々に高度が上がってきて、千佳たちとは反対側のゴンドラが視界に入ってくると、美咲はある事実に気づいてしまった。このままいけば、今度は聡一が千佳たちのあのラブシーンを目撃する羽目になってしまう。それに気づくと、もう後ろが気になって気になって仕方ない。きっと美咲はそのせいで挙動不審になっていたのだろう。聡一に心配の声をかけられてしまった。

「美咲さん、大丈夫ですか? もしかしてここまで高いのは苦手ですか?」
「え、いえ、大丈夫です。高いのは平気です」
「本当に?」
「はい、大丈夫です! 大丈夫なんで……外! 外見ましょう!」

 美咲のほうを向いていたら、気づいてしまうかもしれない。美咲は慌てて聡一の視線を外に向けようとした。

「……あー、なるほど。ふふっ、美咲さんはかわいいですね」

 聡一はなぜかまた照れるようなことを言ってきたが、美咲はそれどころではなくて、必死に外へ顔を向けていた。

「ほら、あちらを見てください。最初に乗ったコースターが見えますよ。結構回転していたんですね」

 聡一がしっかりと外に顔を向けて話しはじめたから、美咲はようやく体の力を抜いて、聡一と一緒に外の景色を楽しんだ。やはり彼の穏やかな話声を聞くととても心が落ち着く。美咲は聡一と二人の時間を十分に満喫し、地上が近づくころにはほんの少しの淋しさを覚えていたのだった。
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