敏腕社長との秘密の身ごもり一夜~身を引くはずが、迎えにきた御曹司に赤ちゃんごと溺愛されました~
それからのひと月が私の岩切製紙での最後の日々だった。残りの半月は有休消化で終わる。
私はほとんど要さんの外出には同行せずに、社内業務に励んだ。実際、その方が要さんの仕事ははかどったし、後任の秘書への引継ぎもあった。私の後は昨年四月に入ってきたばかりの中杉(なかすぎ)くんという男性社員が引き受けてくれることとなった。優秀な新人で、あっという間に仕事を覚えてくれた。さらに人懐っこい性格なので、きっと要さんとは合うだろう。

神野をはじめとした同期からは、突然の退職を嘆かれ、引き留められもした。しかし、家庭の事情を持ち出すと皆、理解を示してくれた。ずるいとは思いつつ、本当のことは言えなかった。
つわりもあり、送別会は遠慮したが、最終出社日は神野がランチに誘ってくれた。

「俺はずっと高垣と仕事ができると思ってたから、すごく残念だよ」
「ごめんね、神野。でも、そんなふうに言ってもらえると嬉しい」
「まだ次の仕事は決まっていないんだろ」

「うん。焦らずに決めようと思って。実家の近くは東京ほど求人もないし、条件のいいところを吟味するつもり」

フォークにパスタを巻き付けながら言うと、神野は頷いた。
< 27 / 108 >

この作品をシェア

pagetop