神獣使いのお気に入り
「そろそろ居住区に戻ろうと思うのだが…」
その言葉に白狼を撫でていた手を止めて立ち上がる。
エプロンについた汚れを払い、お辞儀をしてお見送りだ。
お辞儀をしていると、ふわりとムスクの匂いが鼻を掠め体温が近づいた。
「ここの仕事が終わったらフィリカ嬢がわたしの部屋の清掃に来てくれないか?」
と、耳元に顔を寄せられ低音の心地いい声が聞こえた。
フィリカ嬢…って、わたし!?
わたしの部屋ってユリウス様のお部屋!?
あまりの衝撃発言にお辞儀したまま固まってしまったフィリカのエプロンポケットに白い紙を入れると軍服のマントを翻して宮殿に向かうユリウス。
声をかけることもできないまま、ユリウスの後ろ姿は見えなくなってしまった。