初デートのすすめ
萌が泣いているのを、賢斗はしばらく黙って見つめていた。
そして、賢斗の方から口を開いた。
「俺、別れたくない。」
「え…?」
言われたことの意味が分からず、萌が驚いて顔を上げると、賢斗は悲しげな、でも強い意思を持った表情で、萌を見つめていた。
――いつも優しい常磐君のこんな表情、見たことない。
驚いてそのまま固まっていると、賢斗が話を続けた。
「お店のチョイス悪いし、緊張して全然喋れないし、今日の俺、ホントにダメなとこばっかだったけど、次は絶対失敗しないようにするから。だから別れないで欲しい。」
――あ、もしかして『ごめん』って私が言ったの、フラれたと思ったのかな?
違うよ、と口を開こうとしたが、賢斗の言葉に遮られた。
「好きなんだ。佐々原さんのこと。…だからもう1度、チャンスをください。」
そう言って、賢斗は頭を下げた。
胸が締め付けられそうなくらい、キュンとした。
賢斗の想いが全部伝わってくるようだった。
――ダメだって思ってたの、私だけじゃなかった。